第7話 緊急会議?

昼休み、南棟視聴覚室に緊張が走る。


「では、これより鉄郎君を愛でる会の緊急会議を始めます」


「本日は各クラス代表の他に、各部活の部長さん達にも集まっていただきました」


藤堂リカの挨拶で始まった緊急会議、集まった生徒達に緊張が走る。皆今日の会議の重要性を分かっているのだろう。


「今日、私達の前に立ちはだかる、大いなる敵の存在を確認しました。そう、鉄君のお母様ですわ」


ゴクッ、と唾を飲み込む音がどこからか聞こえた。無理も無い、今朝の出来事は全校生徒が目撃しているのだから。


「今後鉄君とお近づきになるのに最大の障壁となることを私は確信しました。大体なんなんですかあの女は、母親のくせに鉄君にキ、キスなどと破廉恥な。私が何度夢の中で想像したかわからない行為を、ああも簡単に。羨ましい」


色々本音が漏れてる生徒会長を会議室に集まったメンバーが見つめる、就任当時はもうちょっとしかっりしてたような気がするが、鉄君が入学してからどんどんイメージが壊れていくなぁと会議のメンバーが揃って思う。


「とにかく、あの年増の毒牙から鉄君を守る為には、私達も早急に行動を起こす必要がありますわ!」


「はいっ!会長、鉄君は生足が大好きなのでスカートを短くして、生足での女性アピールを提案します。これで年増に一歩リードです!」


前に足を褒められた副会長の平山が、ふふんと自慢気に提案してくるが、鉄郎は生足が好きとは言ったことは無い。

もしかしたら好きかもしれないが、この季節だと見てる方が寒くなる可能性がある。


「えっ、私冬場は110デニールのタイツなんですけれど駄目ですの? そ、それにこれ以上スカート短いのは恥ずかしいと言いますか」


寒冷地にあるこの学院では、去年まで冬場はスカートの下にジャージを履く者もいたが、今年はそうも言ってられない状況だ、暖かさをとるか、鉄郎へのアピールをとるか悩みどころである。

リカはちょっと冷え性でもあるのだ。


「う〜ん、分かりました。理事長に暖房設備の増設を要求しておきますわ。後、タイツは60デニールまでは可ってことにしません?」


この会議のおかげで学院の暖房費が大幅に跳ね上がるのだが、生徒達には概ね好評に受け入れられた。

ラブレターを送る案も出されたが、なにを勘違いしたのか全校生徒の写真付きカードを鉄郎宅に送ることになった、それじゃあ只の生徒名簿である。



「次の議題は鉄君からのハグについてです」


「被害報告をお願いします。平山副会長」


「はい、会長。昨日バレー部において部員11名が鉄君からのハグを受け、精神的にちょっと危ない状態になっています。なお、これはバレー部による鉄君の素直さを利用した卑劣な作戦によるもので、現場に居た私としてはバレー部には厳重な処分を要求します」


「なっ!意義あり!私はその恩恵を受けていない!!」


バレー部の丸亀エヴァが抗議の声を上げるが誰も取り会おうとしない、バスケ部からは「くそっ、なんでウチはフルーツバスケットなんかやってしまったんだ」と後悔の念が囁かれる。


「続けます、今朝も3年の芦屋さんが鉄君のハグを受け、今も保健室で休んでいる状態です。後、うちの大村花江も昨日失神させられています。以上」


「なっ!意義あり!私はハグではありません、頭ポンポンされて倒れそうになった所を抱きとめてもらっただけです!」


イラッ


ザワザワ。花江の説明はかえってその場の空気を険悪なものにする。嫉妬渦巻く空気の中、リカが机を叩く。


「こ、こう言ってはなんですけども、最近の鉄君には男子としてのつつしみが足りないと思いますの」


「で、でも会長、そこがまた、そそると言いましょうか」


「だから困ってるんですわ!」


「私の大阪の従姉妹に聞けば、男子というものは傲慢で怠惰でお金がかかる生き物だと言ってました。決して私の鉄君の様な男子など居る訳が無いとも言われました!ならば、この胸の奥にムラ、いやメラメラと燃えるパッションはどう説明すればいいのですか!私が変態とでも言うのですか!」


「ハイ、会長。私の鉄君と言うのは訂正してください」


「え、そこっ!!」


ちょっと、グダグダになりかけたが茶道部の三国が冷ややかな声で発言する。ちなみに明日の鞄係である。



「では、鉄君にハグを禁止させるとでも」



「「「「・・・・・」」」」


静まりかえるメンバーに勝ち誇った笑みを漏らす三国、ハグの禁止、そんな事をここに集まった皆が決定出来る訳がないと確信しての発言だった。


「そ、それは鉄君の意思を尊重する意味でも禁止させるのは得策ではないと思いますわ。でも、私としてはまず、手をつなぐ事から始めませんと身が持ちませんわ」


「「「意外と初心うぶだな、会長」」」


結局、鉄郎のハグの破壊力の確認だけで誰からも解決策は出なかった、誰も解決する気がなかったとも言える。


何のための会議だ。

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