第3話 昼休み

昼休み、南棟視聴覚室。


「では、これより鉄郎君を愛でる会の会議を始めますわ」


生徒会長である藤堂リカが、重々しく口を開き会議開始をつげる。


「本日の報告をお願いします。平山副会長」


「はい、会長。では、本日の鉄郎くんの行動を報告します。0830武田家の車両で登校、同時刻、会長のエスコートで教室に入室。その後国語、数学、化学の授業を無事に終え、昼食は教室で持参した手作りお弁当を食べております。ちなみにお弁当の内容はハンバーグ、卵焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草のごま和えでした、栄養バランスも良く、とても美味しそうだったとクラス委員から速報が入ってます。以上です」


「「「おぉ〜〜〜!!」」」


「はぁぁ〜、鉄君の手作りお弁当食べてみたいですわ。きっと昇天するようなお味でしょうね。そうですわ!学校行事としてお弁当交換の日を設けるのはどうでしょう」


「会長、それは競争率が激しすぎて、絶対に暴動が起きます」


「はーい、会長。それではおかず交換位でしたらどうでしょう」


「はぁ? それでは1Aの子しか出来ないでしょうがぁ!!! 絶対に許可出来ませんわ!!」バンッ!


「その通りです会長、それでは2年3年の生徒が黙ってません。絶対に1Aを潰します!」


リカが怒りの声を上げ机を叩く、平山がそれに続いて死刑宣告をすると、1年生メンバーに緊張が走る、目がマジだ。


この一見アホな会議も生徒会の仕事として重要なのである、こんな会議でもやらないと学院の秩序は崩壊する。

生徒間で明確なルールを提示しないと、勝手に抜け駆けした者が嫉妬で殺害されかねないのだ。

もちろん、この会議のことは、絶対に鉄郎本人には知られてはならない。



一つ、鉄君に個人で接触する事。

一つ、鉄君にセクハラしない事。

一つ、鉄君にストーカー行為をしない事。

一つ、鉄君の私物を盗まない事。

一つ、鉄君は学院の共有財産である事。


但し、鉄君からの行動の場合は例外とする♡


生徒会役員と、各クラスの代表15名からなる会議で決められた条例は、学院全体に通知され、それを破った者は体育館裏に呼び出される。

副会長ながら個人で接触禁止の条例を朝から破っていた平山智加は、密かに冷や汗を流すが、自分のことは棚に上げて開き直る。










「おっ、今日の卵焼きは我ながらいい出来だ」



そんなアホな会議が毎日のように開かれているなどつゆ知らず、自分で作った卵焼きを自画自賛しながら頬張る鉄郎、そこに鉄郎が入学してからは教室で一緒に昼食をとるようになった、担任教師の住之江がすかさず近づいてくる。


「鉄君のお弁当いっつも美味しそうやね。どお、先生とおかずの交換せえへん」


「いいですよ。でももうミニハンバーグ一つしか残ってませんよ」


「おお、ハンバーグええやん。鉄君の手作り?」


「ええ、豆腐をつなぎに使ったから、冷めても柔らかいですよ」


教室中にゴクリッと唾を飲み込む音がするが、二人は気付く事無くおかずの交換を始める。

この教師、空気を読まない事には定評がある、いや、わざと読まない。


「ほな、私からはたこ焼きあげるね」


「先生、たこ焼きでご飯食べてたの?」


「ん、たこ焼き美味しいよ。ではでは」


「んん〜〜っ、美味しいー!! 鉄君の手作りハンバーグめっちゃ美味しい!!この味ならお店出せるわぁ!!」


「そんな、大げさな。あ、たこ焼きも結構美味しいです」


和気あいあいとおかず交換をする二人と、よだれを垂らしながら悔しがるクラスメート。

協定の枠外にいる教師のしたことであるが、この件は速攻で会議に報告され、住之江の受け持つ数学の授業は1週間のボイコットが決まった。


しかし。


「はん、そんぐらい覚悟の上や、それに見合った価値は有った!!」


と24歳の女教師にはまるで堪えた感じは無かった、大人の女はこんな時は絶対に躊躇ちゅうちょしないのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る