よくわからないことは必ず調べよう

 高校生だもの、イメージで突っ走って書いたっていいじゃない。


 でもね、それを不特定多数に見せるならちょっと待って。

 あなたの小説の表現で傷つく人がいるかもしれない。

 あなたにとっては想像上の出来事でも、現実の地獄を生きている人があなたの語る想像上の間違った地獄を見たらどう思うか考えた?

 まず世界にはあなたの予想以上の地獄があることを認識して。

 そしてそこに落ちた人を自分には関係ない、自己責任と軽く見るのはやめよう。

 それを小説に書いて表現するなら、そのことをしっかり認識して発表しよう。


 ちょっとアレな表現ですが、今回自主企画をやって「センシティブな物事を完全な想像で書いた結果、対象に怒られても仕方ないレベルの作品」にいくつかぶつかりました。もちろんわかっててわざとやってるならそういう作品なんですから仕方ないですし、わかってるならそれだけ救いがあります。


 問題は、おそらく「わかってない」ということなんです。


 ちょっと過激な例でわかりやすく書きます。例えば、こんなあらすじの恋愛小説があったとします。


 男主人公は女幼馴染に告白して、OKをもらいます。早速最初のデートの日、彼女はいくら待っても現れませんでした。なんと彼女は向かう電車の中で精神疾患を患う男性に滅多刺しにされて殺害されていたのです。そして犯人は精神疾患のため次の日には無罪放免となりました。許せない。男主人公は無罪になった犯人の元へ行き、犯人を殺して首を落とします。その首を女幼馴染の墓前に備えて、仇を取ったから僕も君のもとへ行くと自刃します。おわり。


 さて、この話にどんな問題があるかちょっと考えてみてください。無限にツッコミどころはあるのですが、大きくわけて3つあります。


 ひとつめは、精神疾患への無理解

 ふたつめは、刑事事件や司法制度への無理解

 みっつめは、これを恋愛ものとして消費すること


 この辺りですね。解説します。


 まずひとつめ。今回これに個人的にかなり打ちのめされました。精神疾患に限らず、障害や人種などにかなりベタベタなレッテルを貼って偏見を助長するような役割を与えている作品に出会い、なんと言ってよいかわからなくなりました。


 ひとことで言えば差別ですね。この作品の理屈で言えば、精神疾患がある人は理由なく人を殺すということになります。作者の中でそう思っている分には仕方ないと思うのですが、例えばこれを読む読者、例えばこの筆者本人がその精神疾患を患っていたとすればどう思うと思いますか?


 そりゃ「お前は人殺し予備軍だ」と言われたようなものです。真面目に傷つきます。しかも多分、作者はそんなつもりはないんですよね。余計傷つきますよ。


 そしてふたつめ。まず精神疾患由来の殺人があったとしても、無罪放免にはなりません。自分もそれほど詳しいわけではないですがこの場合、様々な精神鑑定が行われて最終的に無罪判決が下されたとしても措置入院となり、一生病院で暮らすことになるのではないでしょうか。しかも判決までかなりの時間がかかると思います。次の日に無罪放免とは絶対なりません。過去の類似事件の判例をしっかり調べて、司法制度もしっかり確認しましょう。


「でも私の世界だとそうなんだもん!」と言われても「なんか現実に似ている司法制度が全く違う不思議な世界」だという前提がどこにも提示されていないと、読者は現実世界の約束事で作品を読みます。その上で違和感を感じればそこで不快感を感じて読むのを止めます。いくら空想の世界だとしても、読者がいることには自分ルールで好き勝手やっていいわけではないのです。


 みっつめは、少し難しい話です。例えばこの話が最初から悪意あるスプラッタを目的として殺人の描写が詳細に書かれるとか、精神疾患の描写やそういう司法制度に関わることがメインで書かれたものなら百歩譲って「悪趣味だけどアリかな」とは思います。


 しかし、上記の問題点をスルーして「彼氏が彼女の復讐をして自刃する悲劇が書きたいがために精神疾患を踏み台にして消費する」ということがどれだけ精神疾患当事者及びその関係者を傷つけることか、ちょっと考えてみてください。かなり洒落にならないほど酷い話だと思いませんか?


 精神疾患なんですから、当事者も関係者も苦しいはずです。その苦しみを勝手に改変されて危険人物扱いした挙句に「精神疾患は人殺し予備軍なので殺されても構わない」と残忍に殺されてロマンスの道具にされたら、人権も何もあったもんじゃないです。精神疾患はファッションじゃないんですよ。


 これらの問題を避けるのはとても簡単です。書こうと思うことについて調べるだけでいいのです。精神疾患について書かれた書籍や当事者の書いた手記、実際の刑法や類似した事件の判例などそういったものときちんと向き合っていれば、まずこのようなことは起こりえないはずです。


 とにかくね、「よくわからないけどイメージで書きました」というのはやめよう。よくわからないことは書かないでください。特に現実に存在する疾病や障害、その他弱者と呼ばれる属性をイメージで書くのはアウトです。絶対やめましょう。


 Webに公開して、そして自主企画に参加するということは不特定多数に閲覧してもらうということです。その不特定多数には雑な理解で書かれる当事者も存在するはずです。その人を無駄に傷つけることになるので、もし心当たりがある方がいたらそっと修正するか、閲覧不可にしたほうがいいです。別に名乗り出なくてもいいです。わかればいいです。


 この件があったので今回かなり消耗してしまいました。この筆者本人に精神疾患があるわけではないですが、そのような作品を読むとかなり心が痛みます。今回の例はあくまでも例として実際の体験を再編したもので、本来の当該作品は全体的に違う展開です。それにしても個人的にはアウトの領域だと思いました。よく知らないことを特に悪者にしてはいけません、本当に。


 次回からまとめに入ります。「自主企画のメリットデメリット」という内容で今後どうするかについて書きます。それでは。

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