メリイクリスマス

 次の日も、私はいつもの様に仕事を終わらせ仕事先を後にしました。しかし、唯一いつもと違った点を挙げるとすれば、其れは昨夜の小猫の事がずっとずっと気掛かりであったと云うことでありました。

 私は帰りに小猫の様子を見て見ようと、昨夜段ボールがあった場所へと足を運びました。

 罪滅ぼしに買った猫缶を一つ手に持って。

「あれ………?」

 段ボールの箱の中を見て、私は目を丸くさせました。小猫の姿が見当たらなかったのです。「誰かが拾ってくれたのかな」そんなことを云いながらも、内心、私は安堵に浸ることができませんでした。

「誰にも拾ってもらえぬまま、何処かへと行ってしまったのではないか」、「何処か汚く暗い場所でお腹を空かせ、独り寂しく死んでしまっているのではないか」、そう考えると、私はいても立ってもいられなくなってしまいました。

 宛てもなく、彼方此方あちらこちらを行き来し、彼の雪の様に真っ白な小猫を探し、試みては見たのですが、一向に見つかる気配がありませんでした。

「何処に行っちゃったんだろう…」

 小猫を見つけ出す事ができなかった私は、正しく夜の様な心持ちを覚えながらも私家へと帰って行きました。

「えっ…うそ………」

 私家の前へと辿り着いた私は思わず息を飲んで驚きました。探していた…段ボールの中にいた小猫が、如何云う訳か、私の家の目の前でグッタリとお腹を空かせた様子で伏す様にして眠っていたのです。まるで、私の帰りを待ってくれていたかの様に。

「君、如何してこんな所に…」

 私は凍える小猫を優しく抱え上げて、急いで家の中へと上がりました。暖房を入れ、使わなくなっていた毛布を押し入れから出して小さな身体を暖め、買ってきた猫缶をさじすくって小猫に食べさせてあげました。小猫は何も怖がることなく、私の差し出した匙をくわえて(亦はペロペロと舐めとる様にして)食べてくれました。私は此の小猫の嬉しそうに食べる様子に、いつの間にか笑みを顔から漏らしておりました。私は心から喜んでいたのです。小猫の見せる一挙手一投足に、「にゃ〜」と弱々しくも此方を信頼し甘えた様子で鳴く、其の小さな姿に。

 私は毛布越しに小猫を抱きかかえました。冷えて冷たかったけど、僅かに生の熱を掌の内で感じることができた。

 とっても暖かかった。  

 怖がられない様、優しく笑顔を浮かべた侭、私は「小猫の命の責任を己が手で背負う」と云う其の覚悟を強く心に誓いました。私の覚悟を感じ取ったのか、小猫は嬉しそうに亦「にゃあ」と此方へと鳴いて見せました。

 其の頃、外では小猫の毛並みの様に白くて、其れでいて簡単に溶けて消えて了う淡い雪が天より降っておりました。 

「そう云えば、今日は十二月二十五日、クリスマスでしたね」

 窓の外に積もり始めた(若しくは、降り始めた)雪(雪景色)を見て、私は多忙の余り忘れてしまっていた、今日と云う特別な日を思い出しました。

「メリイクリスマス」

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【メリイクリスマス】 朝詩 久楽 @258654

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