【メリイクリスマス】
文屋治
クリスマスイブ
今日も
いつもの様に仕事を終えた。
何年も使い続けてボロボロになってしまった鞄に荷物を詰め、首には蛇の様に長いマフラーを巻き、分厚く重いコートを羽織り、勤め先を後にした私は一人、寒い夜の帰路を歩んでいた。最寄りのI駅から満員の電車に乗り込み、
乗車駅から各停電車に乗り、七駅程行った所にあるT駅にて電車を降りた私は人込みの中を掻き分ける様にして歩んで行きました。
此れは私の気のせいかもしれませんが、
月が雲に隠れ、薄暗くなった狭い路地を、私は寒さを紛らわすために両手へと息を掛け、其の温もりを纏った息を掌一杯に行き渡るようさすりながら歩き、
「此の声…」
私は声のした方へと目を向けました。すると、其処には段ボールに入れ、捨てられていた一疋の小さな小猫の姿がありました。毛並みは真っ白で、
「君…此処に捨てられちゃったの……?」
私の問い掛けに、小猫は再び「にゃぁ」と声を上げて応えました。
「こんな寒い季節に…可哀想に……」
ブルブルと寒そうに凍えた小猫へと、私は無意識の内に手を伸ばしました。
私は差し伸べようとした手をコートのポケットの内へと入れました。そして、捨てられていた小猫を見て見ぬふりをし、其の場を立ち去りました。まるで、何事もなかったかの様に。
「御免ね……本当に御免ねぇ………」
駆け足で去って行く其の最中、私は必死にそう呟き続けました。
家へと辿り着いた私は鞄を椅子の上へと置き、コートを同じく椅子の背凭れへと掛けました。そして、冷蔵庫の中に有り合わせた食材を使って簡単な夕食を作りました。併し、今でも外で凍えているであろうあの子猫のことを思うと、私は溜め息ばかりが口から溢れ、夕食が喉を通りませんでした。
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