第27話 私もリアムのこと愛してる

「高位防御結界発動。魔力封印範囲展開。ゲラルド・ルブ・ドリストライヤーを拘束」

「なっ!?」


 突然、鋭い声が響くと同時に青白い光に包まれ、グランが間抜けた声を上げる。

 オフェリアは訳がわからず戸惑っていると、いつのまにか拘束魔法が解けていて、自由に動けるようになっていた。


「オフェリア、無事!?」

「リアム!」


 リアムの声に、急いで駆け出してリアムの元に向かう。


 すると、いきなり走ったせいか足がもつれて勢いよくリアムに抱きつくオフェリア。リアムはそれを受け止めると、彼女のことをギュッと強く抱きしめた。


「熱烈な歓迎だね」

「違っ! って、そうじゃなくて! 来てくれてありがとう」


 こんなときでも軽口を言って緊張をほぐそうとしてくれるリアム。それが嬉しくて、オフェリアはしがみつくように抱きついた。


「ごめんね。怖かったよね。でも、安心して。もう大丈夫だから」

「ありがとう、リアム。……あと、さっきは酷いこと言ってごめん」

「大丈夫だよ。さっきのがオフェリアの本心じゃないことくらいわかってる。いつも言ってるでしょう? 僕はオフェリアがいればいいって。オフェリアなしでは生きられないんだ」


 リアムはそう言うと、オフェリアの頬に手を添えながらふっと柔らかく微笑む。リアムが一緒にいてくれていることの心強さと安堵でオフェリアは胸がいっぱいになった。


「どうして、どうしてこの場所がわかった!? ボクの計画は完璧だった! オフェリアにかけてあったあらゆる追尾魔法も解除したし、この部屋だって一般的な世界とは隔離していて認識阻害までかけたというのにっ! それに、何でボクの本当の名前まで……っ」


 いつのまにか拘束され、転がっているグランがギャンギャンと喚く。

 先程とは正反対の形勢逆転に、どうやら理解が追いついていないようだった。


「悪の帝王になる男を舐めてもらっては困るなぁ。僕はとても慎重で狡猾な男なんだよ? キミの名前はオフェリアから聞いた偽名から割り出せたし、認識阻害程度じゃ僕には通用しないよ。残念だったね」

「くそっ! オフェリア……っ!」


 オフェリアのせいだとわかって唸るように彼女の名前を呼び、キッと睨みつけるグラン。

 けれど、すぐさまそれを遮るようにリアムがオフェリアの前に立った。


「やめてよ、オフェリアに当たるのは。そもそもキミはオフェリアを安く見積もりすぎだよ。この僕でさえ、落とすのに苦労した女性なんだよ? キミごときがオフェリアを魅了できるわけがないでしょ」


 リアムが自信満々に言うのを聞きながらなんだか居た堪れなくなる。褒められているのか貶されているのか、ちょっと複雑な心境だ。


「ボクは……っ、ボクは……! リアム様のために! リアム様が悪の帝王になってほしい一心でここまでしたというのに!」


 切実な表情でリアムに訴えるグラン。

 だが、リアムはそれを蔑むような目で見下ろす。


「はっ、よく言う。自分のためだろ。ただ僕を利用して自己中な世界に浸っていたかっただけじゃないか。そもそも僕にはオフェリアがいればそれでいいんだ。キミの望む世界なんかいらない。だから、こうしてやり直した今があるんだろう?」


 グランの言い訳に、冷笑を浮かべながらやり込めるリアム。その瞳は怒りに満ちていて、射殺してしまいそうなほど鋭利で容赦ない視線がグランに向けられている。

 さすがのグランもどうにか反論したそうにしていたものの、リアムからの圧力にただ黙り込むしかできなかった。


「じゃあ、ジャスパー。連行よろしく」

「承知しました」


 リアムしかいないと思っていたら、どうやらジャスパーもいたらしい。いつもよりも冷ややかな表情の彼をオフェリアはちょっとだけ恐く感じた。


「くそっ、やめろ! 離せっ、行きたくない! 嫌だっ」

「往生際が悪いですよ? 相応の報いは受けていただかねば。あぁ、その煩い口は閉じておきましょう。耳障りですから」


 ジャスパーが何かしたのか途端に静かになるグラン。さすが悪に帝王の右腕なだけあって容赦がない。


「ジャスパーもごめんね。迷惑をかけて」

「いえ、お気になさらず。オフェリアが生きていることが何よりですから」

「ありがとう」

「どういたしまして。……色々と片付けましたら、今度こそ食事に致しましょう」

「うん」


 ジャスパーがふっと優しく微笑む。オフェリアを安心してくれようとしているらしい。

 そんなジャスパーの心遣いに感謝しながら、オフェリアも微笑み返すと「こら、よそ見禁止」とリアムによって彼の顔を見るように無理矢理顔を固定される。


「オフェリアは僕以外見ちゃダメ」

「それはさすがに横暴すぎるでしょ」

「そうだよ? 僕の愛は重いんだ。オフェリアは僕のこと信用してないみたいだけど、僕は本気でオフェリアのこと一生手放さないつもりだから、覚悟して」


 リアムにまっすぐ見つめられる。

 その瞳は嘘偽りなどない真摯な瞳だった。


「……いいけど、その前にちゃんと説明してね。全部」

「もちろん。わかってる。言わないほうがオフェリアには危険だということがよくわかったからね」


 言いながらリアムに上向かせられる。

 いつのまにか、グランだけでなくジャスパーもいなくなっていた。


「愛してる。無事で本当によかった」

「ありがとう、リアム。私もリアムのこと愛してる」


 ゆっくりと唇が重なる。

 リアムの愛を一身に受けて、オフェリアはリアムに身を委ねるのだった。

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