第21話 したら起きるって約束してね
「おはよう、リアム。朝だよ、起きて」
いつも通りの平日の朝。
今日も朝が弱いリアムのためにオフェリアが彼を起こそうとしていた。
「んー、まだ眠い。でも、オフェリアがキスしてくれるなら起きようかな」
「朝っぱらからバカなこと言ってないでさっさと起きて。授業に遅れるし、ジャスパーが朝食用意して待っててくれてるんだから」
オフェリアが布団を剥ぎ取ろうとするも、布団の端を引っ張り、身を縮めて起きるのに抵抗するリアム。
普段は渋々ながらも起きるというのに、たまにこうして子供のように甘えるときがあった。
「こーら、リアム!」
「オフェリアからの愛が足りないから起きられない」
「何よ、それ」
「ほら、僕を起こしたいなら早くして」
「理不尽すぎる……」
ちらっと向けられる視線。
明らかに試し行為であることはわかっている。いつもならオフェリアも上手く躱していなすのだが、何となくたまにはちょっとくらい甘やかしてもいいかなという気分になった。
「したら起きるって約束してね」
「え?」
オフェリアの言葉にきょとんとした顔をするリアム。その呆けたままの唇にちゅっとオフェリアは軽く自分の唇を重ねると「ほら、したから起きて」とリアムに起きるように促した。
「オフェリア」
「何? って、ちょっ!? うわっ、んむっ……ふ」
ガバッと首に手を回され、布団の中に引き摺り込まれる。そのままキスされたかと思えば、唇が重なったまま押し倒されて、オフェリアは目を白黒とさせた。
「好き。オフェリア大好き。今日はもう授業行かないで、一緒にこのまま僕とここで愛し合おう?」
色気のある表情で、甘い言葉を囁いてくるリアム。恐らく、女子であれば誰もがイチコロになるであろうが、オフェリアは違った。
「いやいやいやいや! 話が違うでしょっ! それに在学中はそういうことしないってば」
「ダメ? 絶対に?」
「可愛らしく言ってもダメ!」
「ちぇ」
オフェリアが断固拒否すると、リアムは渋々といった様子で起き上がる。
「オフェリアは頑固だなぁ」
「悪かったわね」
「そんなオフェリアも好きだからいいけど。あー、でももう一回くらい寝起きのキスしてもらいたいなぁ」
「そんな時間もうないでしょ」
「時間あったらしてくれるんだ」
「え!? ばっ! もうっ、またからかって!」
オフェリアがむくれるとからからと笑うリアム。そんなやり取りをしながら、ジャスパーが用意する朝食を食べるための準備をするのだった。
◇
「…………あ、ハンカチ忘れた」
ジャスパーの朝食を食べに行く道中、オフェリアはうっかり忘れ物をしていたことを思い出す。
「僕をあれだけ急かしてたのに、オフェリアが忘れ物するなんて」
「ごめん。ちょっと取りに行ってくるから先に行ってて」
「いいよ、待ってるから。むしろ、いつどこで何があるかわからないんだから一緒に戻ろうか?」
「大丈夫だよ。ちょっとすぐ行って戻ってくるだけだし」
実際、戻るのに数分といった距離だ。
自寮と往復したとしてもせいぜい十分かからないくらいだろう。
「でも」
「そんな短時間でどうこうなることはないよ。とにかく行ってくるから先行ってて」
「わかったけど、気をつけてね」
「もう、リアムは心配性なんだから。ハンカチ取りに戻るだけでどうってことないから安心して。ジャスパーには、遅れるけどすぐに来るからって伝えておいて」
そう言ってすぐさま自寮へと駆け出すオフェリア。そこまで時間がかからないとはいえ、自分の不手際で遅れるため、なるべくロスする時間を減らしたかった。
「よし、あった。……あ、そういえばグランにいつ会えるかわからないし、このハンカチ持ち歩いてたほうがいいよね」
部屋に到着するや否やすぐに収納棚からハンカチを取り出したとき、不意に机にあったハンカチが目に飛び込んでくる。
以前グランから貸してもらったハンカチを洗ったあとまだ返せてないことを思い出し、そのハンカチを丁寧に折りたたむと適当な袋に入れてカバンの中にしまった。
「って、いけない。いけない。急がないと」
あまり待たせるとリアムとジャスパー、二人から何を言われるかわかったものではないとオフェリアは慌てて寮を出る。
そして、いつもの食事をとるための専用の部屋へと急ぐのだった。
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