第20話 ……たまに命を狙われていることを忘れそう
リアムと恋人関係になってから早数週間。
オフェリアとリアムの距離は一気に縮まり、オフェリアは多少抵抗してはいるものの、リアムは人目も憚らずオフェリアとのいちゃつきを全面に出していた。
ちなみに、ぼっち問題は文字通りオフェリアとリアムが片時も離れず過ごすことで呆気なく解消された。
トイレはリアムの転移魔法に頼ってリアムと共に自寮に戻ってからトイレを済ませるようにし、風呂は防衛魔法という名のお触り禁止魔法を行使しつつも、リアムと一緒に大浴場に入ることで親衛隊達の魔の手を防げるようになった。
また、リアムは以前とは違って親衛隊の子達を婉曲ながらも牽制してくれるようになった。
もちろん親衛隊の子達は面白くなさそうにしているが、常に彼らの憧れのリアムが隣にいるため、オフェリアに嫌な顔をすることすらできずにいつも何とも言えない顔をしている。
ジャスパーのほうも彼女達を言いくるめたのか、はたまた別の何かをしたのかは不明だが、あれから特に接触を図られることはなくなった。
ということで、オフェリアは以前に比べてかなり過ごしやすい平和な日々を送れるようになっていた。
「……たまに命を狙われていることを忘れそう」
オフェリアが図書館で宿題をしながらぼそりと呟くと、隣にいたリアムが「オフェリアが平和ならよかったよ」と腰に腕を回し、抱き寄せるとオフェリアの頬に口づける。
そのまま口にも口づけようとしてくるリアムを手で牽制しつつ、オフェリアはギュッとリアムにくっつくと彼の手を握った。
「でも、平和ボケしちゃいそうで怖い。卒業までまだ日数もあるわけだし。油断は禁物、でしょう?」
まだ入学したばかり。
もうそろそろウィンターホリデーで一学期は終わるものの、まだ学校生活は二年半もあるのに、こんなに平和な日々を送っていていいのだろうかとオフェリアは不安になっていた。
「確かに油断は禁物だけど、僕としてはオフェリアが幸せならそれでいいかな。ずっとストレスに晒され続けるの疲れるでしょう?」
「それはそうなんだけど。そういう意味ではリアムは大丈夫? いつも澄まして見せてるけど、ずっと気を張ってるでしょ」
オフェリアが心配そうにリアムの目を見て言うと、リアムはびっくりした様子で目を見開く。
そして、「僕のオフェリアはさすがだね」と笑って、オフェリアを強く抱き寄せた。
「あぁ、こんなにオフェリアに愛されて僕は幸せだな」
「何よ、急に」
「オフェリアは僕のことよく見てくれているなって思って」
指摘されて黙り込むオフェリア。
自覚はなかったものの、言われて確かにリアムのことをよく気にしていた自分に気がついて、なんだか顔が熱くなる。
(無自覚って怖い)
俯くオフェリア。
そんな彼女の顔をリアムは覗き込んだ。
「まさか、自覚なかった?」
「煩い。だって、無意識にリアムのこと気にしてたんだからしょうがないでしょ……」
いつも一緒にいるから全然気づかなかったと、今更ながら自覚して羞恥心が込み上げてくるオフェリア。
そういえば、リアムがいないときや離れているときも、つい目で追っていたとどんどん記憶が芋づる式に引っ張り出されて、顔だけでなく頭まで沸騰しそうなほど熱くなった。
(今更だけど、私鈍感すぎるでしょ。こんなにリアムのこと好きだったくせに、好きがわからないとかジャスパーに漏らしてただなんて。恥ずかしすぎて死ぬ!)
きっとこの状況をジャスパーが見たら「おやおや」と言いながら何か含みを持たせた顔で微笑んでくるに違いない。
今日は用事があるとのことで不在なおかげで、そんな顔をされずに済んでいるが。
「何それ。可愛すぎるんだけど。オフェリアって案外、僕のこと好きで好きでしょうがないんだね」
「あーもー! そうよっ。悪い? だからこうして付き合ってるんでしょ。好きじゃなかったら、一緒にいな……んっ」
もうこうなったらヤケだと開き直ると、そのままリアムに口づけられる。ジタバタともがくも、全然離してもらえずにオフェリアは目を白黒させた。
「っんふ。はぁ……っ、ちょっと! ここ図書館!」
「そうだよ。だから静かにね」
「〜〜〜〜っ! 一体誰のせいだと……っ」
「食べちゃいたいほど可愛いオフェリアが悪い」
オフェリアは顔を真っ赤にしながら抗議するも、リアムはどこ吹く風。ニコニコと幸せそうに微笑まれて、オフェリアも毒気を抜かれてそれ以上何も言えなかった。
「……せめて、人に見られないとこでしてよ。恥ずかしいでしょ」
「僕はあえて見せたいけどね。僕のオフェリアなんだから、誰も手を出すなってね」
「信じられないっ! 見せびらかしたいだなんて。……変態」
「オフェリアの前でだけだよ」
そう言って再びチュッと軽く唇が重なる。
リアムから愛しげに見つめられ、居心地悪くなりながらもどこか嬉しい自分もいて、オフェリアは幸せなジレンマを抱えながらも理性で押し留めて「ほら、もう宿題するよっ」と宿題に取り掛かるのだった。
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