第19話 それは確かに、アリかも

「リアム様、おめでとうございます。思ったより早くお付き合いされることになったようで、よかったですね」


 ジャスパーに会うやいなや、自慢げに両想いになったことを報告するリアム。

 昨日あったオフェリアの被害を絡めながら、オフェリアが「親衛隊の子達と私どっちが大事なの!?」と迫ったやら「私以外よそ見しちゃダメ」と言ったやら、かなり話を盛って話すリアムにツッコミを入れつつも、オフェリアはなんだか居た堪れなかった。


(ジャスパーに散々恋とはなんだとか言ってた手前、ちょっと気まずい)


 好きってなんだろう。

 好きになるにはどうすれば。


 などと言ってたヤツが、どのツラ下げて両想いになっているんだと思わないだろうかとネガティブになってジャスパーの顔をチラッと見る。

 けれど、どうやらジャスパーはさして気にしてなさそうで、オフェリアを嘲笑する様子もなく、リアムに軽口を叩いていた。


 それを見て、ちょっとホッとするオフェリア。


「思ったよりも早くってどういうことだ」

「そのままの意味ですよ。リアム様はモブ女性の扱いは長けているのに、オフェリアのこととなるとてんでダメでしたし。愛が重すぎるのも考えものですね」

「煩い。黙れ」

「ですが、これでオフェリアのぼっち問題は解決しましたね」

「まぁね」

「うん? ちょっと待って。ぼっち問題ってどういうこと?」


 ジャスパーの発言が気になって割り込む。

 すると、ジャスパーはオフェリアに向かってにっこりと微笑んだ。


「リアム様はずっとオフェリアがトイレやお風呂を一人でされることを気になさってたので。これ以上危害を加えられないためにもなるべく一緒にいるためには交際するのが一番だという結論になりましたが、いかんせんオフェリアはその気がなさそうだったのでずっと危惧していたんですよ」

「えぇっと? それと私がリアムと交際することでぼっち問題がどう解決するのか見えないんだけど?」


 リアムと両想いになって交際することになったこととトイレやお風呂に一人で行くことが結びつかなくて、オフェリアは首を傾げる。

 両想いになったからといって劇的に変化することなどあっただろうかと考えたが、何も思いつかなかった。


「交際さえしてしまえばトイレもお風呂も一緒に入れるじゃないですか。ですから、これで今後オフェリアは一人になる機会が減ることになってよかったかと」


 ニコニコニコニコととんでもないことをさらっと言ってのけるジャスパー。あまりに突拍子もないことを言い出すので、オフェリアは思わず面食らって反応が遅れた。


「いやいやいやいや、いくら付き合うからって言ってもトイレもお風呂もリアムと一緒は嫌ですけど!?」


 知らぬ間に勝手に話を進められていることにも驚きだが、そもそも交際するからといっていきなりそこまで関係を進めるというのはおかしくないだろうか。

 と思ったが、相手はリアムとジャスパーだ。一般的常識からかけ離れている二人だと気づいて頭が痛くなる。


「えぇ? なぜです? 恋人同士なら問題ないじゃないですか」

「そうだよ。ジャスパーの言う通りだよ。恋人は片時も離れず、ずっとそばにいるのが普通だろう?」

「こういうときだけ意見合わせてこないでよ。それに一般的な恋人だって一緒にトイレやお風呂入らないから。私のプライベートゾーンをなんだと思ってるの」


 そこまで四六時中一緒にいたら息が詰まりそうだと考えただけで寒気がする。いくら恋人とはいえ、程々の距離感が大事なのだと熱弁するも、二人にはどうも刺さっていないようだった。


「まぁ、百歩譲って……トイレはいいけど、お風呂は譲れないな」

「何でよ。お風呂だってシャワーだって現状のままでいいでしょ」

「オフェリア、そんなこと言っていいの? 大浴場に入りたくない?」


 リアムの誘惑に思わず生唾を飲み込む。


(お風呂。しかも大浴場……!)


 入学してから今まで、大浴場にずっと行きたかったものの、一人は危険だからダメだとリアムに口酸っぱく言われていたせいで寮内のシャワーで我慢していた。

 元々お風呂好きなオフェリアにとって、リアムの提案はかなり魅力的である。

 だが、やはり一緒に入るという一点だけはどうしても納得できなかった。


「入りたい……けど、リアムと一緒に入ったら絶対何かするじゃん」

「そりゃあ、恋人同士だからちょっとくらいは大目に見てくれても」

「無理」

「何で!?」


 リアムが珍しくショックを受けたような顔をする。けれど、そこだけはどうしても譲れなかった。


「お風呂入るならゆっくり入りたいもん。リアムと入ったら絶対にのぼせちゃうし」

「そこは善処するから……!」

「ほら、否定しない辺りのぼせさせる可能性あるんじゃん」

「それは、でも……っ」

「だから却下」


 背に腹はかえられない。

 いくら大浴場が魅力的とはいえ、全てを晒せるほど心の準備はまだできそうにはなかった。


「ジャスパー、どうにかしろ」


 オフェリアの頑固さに思わず匙を投げるリアム。振られたジャスパーは、わざとらしく眉を下げて困惑するような表情を浮かべる。


「随分と無茶ぶりなさいますね。酷いご主人様だ」

「よく言う。欠片も思っていないくせに」


 リアムが指摘すると、先程の表情はどこへやら。けろっとしたと思えば、ジャスパーはにっこりと微笑んだ。


「おや、バレましたか。とはいえ、オフェリアは頑なですし、恥じらうお年頃だというのもわかります」

「ジャスパー。お前はどっちの味方なんだ」

「わたしはリアム様の配下ではありますが、誰の味方かと言われると困りますね。しいて言うなら、そのときに加勢したいと思った相手の味方かと」

「タヌキめ」


 リアムが悪態をつくも、ジャスパーはさして気にしてなさそうにニコニコとしたまま。この状況を楽しんでいるようだった。


「まぁ、ですが。このままでは引き続きオフェリアのぼっち問題が解決しませんね。昨日同様何かあってからでは遅いわけですし、それなりに何か対策はしておかねばとは思いますが」

「それは、そうかもしれないけど」


 ジャスパーに指摘された通り、いつまた嵌められてろくでもない状況になるかもしれないという懸念はあった。

 そういう状況に陥られないためにも、できればリアムかジャスパーと一緒にいたほうがいいというのもまた事実。


「ということで、お風呂にはいるときは防衛魔法を身につけるのはいかがでしょうか?」

「それは確かに、アリかも」

「は? なぜそうなるんだ!」


 ジャスパーの提案に頷くオフェリア。その一方で絶望するリアム。


「我ながらよい折衷案だと思いますが? これならリアム様の望みもオフェリアの望みも叶えられて、一石二鳥です」

「そうかもしれないけど! 防衛魔法なんかしたら、一緒に洗い合ったり浴槽内でくっつきあったりイチャイチャできないだろう!」

「そこは在学中は諦めてください」

「ふざけるな!」

「ふざけてませんよ。本気です」


 リアムの無情な叫び声が響く。

 そして、お互いの願いは叶えられ(?)、混浴ということで水着を着用して防衛魔法をかけ、無事にオフェリアは大浴場を満喫することができたのだった。

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