第13話 別に

 翌日にはリアムの体調が戻った。


 親衛隊のメンバーはこぞってリアムの体調を心配し、貢ぎ物を渡したり手厚いサポートを進言したりしたが、いずれもリアムはニコニコと愛想をよくしながらもやんわりと断っていた。


 そして、なぜかリアムは以前よりもさらにオフェリアに執着するように。今まで以上にオフェリアと片時も離れず、人目も憚らず密着するようになった。

 休み時間はもちろん、授業中でさえも。


 もちろん親衛隊のメンバーがそれを面白く思うはずもなく。その上ジャスパーの彼女らしき人物達からも目の敵にされ、オフェリアの学校生活はかなり居心地が悪かった。


(心労が半端ない)


 彼女達と顔を合わせれば嫌味のオンパレード。鉢合わせれば、呪い魔法が飛んでくる。


 そんな日々が続いたおかげで、だいぶ気配察知能力や反射神経が良くなった。魔法使いとしての腕前は以前に比べて格段に上がったと言えるだろう。


 とはいえ、当たり前だがそんな日々が続くのは気分がいいものではない。毎日ピリピリと気を張っているせいで、オフェリアはここのところストレスでイライラすることが増えていた。


(あー、ダメダメ。エージェントとしてアンガーマネジメントはしっかりしないと。視野が狭くなると判断力が落ちちゃう)


 命を狙われている以上、常に気を張ってなくてはならない。自分の命だけでなく、リアムのことも守らなくてはならないとなるとなおさらだ。


(せめてどっちかが落ち着けばいいけど、無理そうだしなぁ。下手にリアムやジャスパーが諌めたら、さらに攻撃が苛烈になるし)


 嫉妬ほど恐ろしいものはない。事実がどうであろうと、気に食わないものに攻撃する。

 しかも際限がない。

 例えオフェリアが白旗を上げたとしても、彼女達の気が済まない限り攻撃はやまないだろう。


(はぁ。となると、やっぱり自衛するしかないよね)


 自分の身を守る最も近道は強くなること。もちろん腕っぷしもだが、メンタルもである。


(とはいえ、もうちょっと接し方どうにかできないわけ?)


 視線の先にはリアムと親衛隊のメンバー。

 今はグループ作業中で、魔法薬の調合を行なっている。今回はリアムとグループが分かれたので別のグループなのだが、そのせいか普段よりもさらに親衛隊の圧が凄まじかった。


 オフェリアがそばにいない今がチャンスだとばかりにどうにかしてリアムの気を引きたいと、困ったフリをしたりわからないフリをしたり。リアムに「教えてあげる」とお節介を焼こうとしたり「すごい」だの「さすが」だの褒めてみたり。

 手を替え品を替えアプローチしている様は周りがギョッとするほどだが、周りの誰も指摘しないのは威圧感が凄まじいからである。


 しかも、その親衛隊に対してリアムもニコニコと愛想よくしているせいで、さらにその圧に拍車がかかっていた。親衛隊のメンバーはこぞって自分が気に入られようと必死。

 そのため、他の生徒は誰も彼らの近くには行こうとはしなかった。


「気になります?」

「別に」


 ジャスパーがニコニコと指摘してくるのを塩対応するオフェリア。

 けれど、なぜかそれを見て舌打ちをする女生徒が一人。


(こっちもか)


 どうやら彼女もジャスパーの彼女の一人らしい。あからさまに態度が悪いので、察しがいいほうとは言えないオフェリアでもすぐにわかった。


 ちなみにこの子も代々続く魔法使いの一族の娘で、大臣や高官を多く輩出している名家である。


(私はジャスパーとは何もないよと言いたいけど、言ったところでどうこうなるはずもないよね)


 どうやら一部の界隈では、オフェリアがリアムとジャスパーを暗示魔法か服従の魔法薬を使って誑かして侍らしているという噂が立っているらしい。オフェリアにとっては非常に厄介な噂だが、噂とは恐ろしいもので消し方がない。


 人は信じたいものを信じる性質があるので、下手に否定しても炎上するか粘着が増えるだけ。

 そのため、ただ時が経つのを待って風化させるしか方法がなかった。


(人間関係って面倒。リアムが悪に帝王になる気持ちもわからなくはない……って共感してどうするの、私)


 つい気が滅入って自分らしくない思考に陥っていると反省する。元々考えるのは得意ではあるものの、それはいずれも自分のこと以外でのこと。自分に関連することは経験値が低いため、どうも上手く対処できなかった。


(はぁ。ジャスパーにも言われた通り、ここのところごちゃごちゃ考えすぎなんだな。なるべく考えないようにしよ。まずは目の前の魔法薬の調合に専念しないと。単位を落とすたら任務どころの話じゃなくなっちゃう)


 さすがに授業を取り組む上での妨害はしてこないだろうと予想する。

 案の定、睨まれたり舌打ちされたりすることはあっても、それ以上手を出してくることはなかった。


(ま、私の妨害したら必然的にジャスパーも巻き込むわけだしね。それくらいの判断はできるわよね)


 恋は盲目というが、そこまで彼女の視野が狭くなっていなかったことにホッとする。


(恋か……)


 恋って恐いなぁと思いながらも、そこまでひたむきに相手を好きになれるって凄いなとも思う。自分もそのうちリアムのことをそう思えるのかなと思いながら、オフェリアはグループ作業を進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る