第2話 訳がわからない!
(綺麗な顔。眉目秀麗って書かれていただけはあるか。てか、まつ毛長すぎだし、肌めっちゃ白くて透明感あるし、鼻筋通ってるし、唇の血色よくて全体的にシミ一つないとかなんなの)
オフェリアがまじまじとリアムの顔を見つめるが、リアムは本当に寝てしまったのか全く反応しない。
(でも、ちょっと疲れている感じ? 魔力を消費してるのがわかる)
そっとリアムの顔にかかった前髪を払う。顔は綺麗ではあるが、よくよく見ると疲労の色が滲んでいた。
身体全体からもかなり強力な魔力を使ったであろう残滓が見え、本当に疲れているのだなと察する。
だからこそ、リアムに配慮してなるべく身じろぎしないように心がけているが、思ったよりもリアムの頭は重かった。
(うぅ、足痺れそう。というか、膝枕なんて初めてしたし、恋人でもない初対面の相手にこんなことするなんて距離感バグりすぎじゃない?)
知り合いでも何でもないのにこんなに無防備な状態を晒してもいいのかと、なんだか心配になってくるオフェリア。
(人心掌握に長けているって書いてたの、こういうこと?)
相手の懐に入って警戒心を和らげる作戦か。
それとも油断してるフリをしてこちらの気を緩ませる作戦か。
様々な可能性が浮かんでくるも、今までこんなこと経験したことがなかったオフェリアは、どれもこれも確信が持てなかった。
(確かにイケメンではあるけど、いきなりこの距離感は普通警戒心強めるでしょ。とはいえ、なんか不思議と嫌な気持ちにならないし、むしろ庇護欲が湧いてくるのはなぜだろう)
初めましてのはずなのに、なぜか懐かしい感覚。
嫌な気がせず、どちらかと言えば嬉しいと思ってしまう自分がいることに困惑するオフェリア。
(面食いのつもりはなかったけど、私って実は面食いだったのかな。好みのタイプって意識してなかったけど、リアムみたいなのがタイプだったとか……?)
黒髪の短髪でストレート。体格はどちらかというと細い気もするが、着痩せするタイプなのかもしれない。身長は高すぎるわけではないがオフェリアよりも頭半分くらい高かったので、恐らく百七十センチくらいはあるだろう。脚は長くて手は指先まで綺麗で、まるでモデル体型だ。
(はぁ、見れば見るほど羨ましい。……って、そうじゃなかった! どうしよう、計画がバレたら色々とまずいのでは!?)
ついリアムのことばかりに気を取られていて失念していたが、この状況はまずいのではないかと焦るオフェリア。
理由はわからないが、任務の内容がバレていたということは、更生させたり未来を改変させたりするのは難しいかもしれないと青ざめた。
(どうしよう。これ、もしかして……もしかしなくても任務失敗?)
この任務が失敗したら、その先に待っているのは悪の帝王の誕生だ。
ということはつまり、世界が悪に染められる可能性があるということである。
(あぁーーーー! どうしようっ! 私のせいで世界が……っ!!)
オフェリアが内心パニックになっていると、パチリと開く金色の瞳。先程まで眠っていたはずのリアムと目が合い、固まるオフェリア。
「おちおち眠れやしないな。全く、なんて顔してるの。どうせしょうもないことで悩んで焦ってパニクってるんでしょ」
「なっ、何でわかるの!? え、リアムってもしかして私の心を読めるの?」
あまりに的確なことを言い当てられて、オフェリアは思考が全てお見通しなのかと身構える。
するとリアムは身体を起こすと、形のよい唇を綺麗に緩ませて笑った。
「読むまでもないよ。オフェリアの考えていることなんて顔を見れば容易に想像がつく。それと、僕がオフェリアの任務について知ってたからと言ってキミの任務に問題が起きるわけではないよ」
「え、そうなの?」
リアムの言い分が全然理解できなくて困惑する。
どうもリアムの口ぶり的に、彼は将来自分が悪の帝王になることを知っているようだった。
「訳がわからない。じゃあそこまでわかっているのに、どうしてリアムは悪の帝王になっちゃうの? どうすれば阻止できるの?」
「簡単なことさ。オフェリアが僕のそばにいてくれたら悪の帝王にはならないよ。逆に、離れたらすぐに悪の帝王になっちゃうかも」
「えぇ!? どういうこと?」
「とにかく、オフェリアは常に僕と一緒にいればいいってことだよ」
なんとなく話をはぐらかされているような気がするが、だんだんと近づいてくる顔にオフェリアの思考は乱される。
「ち、近くない?」
「ねぇ、オフェリア。キミは世界を救いたい。だから僕には悪の帝王にはなってほしくない。そうだよね?」
「そう、だけど……」
「だったら契約しようよ。僕から一生離れないって」
「へ?」
まるでプロポーズのような言葉に頭が真っ白になる。
「オフェリアと僕は一心同体。僕以外の誰のものにもなってはいけないし、僕もオフェリア以外のものにはならない。そうすれば、僕は悪の帝王にはならない。どう? 悪い話ではないと思うけど」
「いきなり、どうって言われても……」
どうして自分がいるだけでリアムが悪の帝王にならないのかがわからない。
彼の言い分から、悪の帝王になるキーマンは自分なのだろうことは察せられるが、どうして自分なのかがオフェリアにはまるでわからなかった。
「というか、リアムのほうがそんな契約困るんじゃない? 契約って契約魔法のことでしょ? 確かアレ、命を賭けて契約を守るってやつよね。今後もし誰かを好きになったり誰かから好きになられたりしたら困るのはリアムだと思うけど」
容姿端麗、成績優秀、性格はまだよくわからないが今までの会話からの感じ、破綻しているとまではいかないだろう。
となると、他に相当な難がない限り彼は今後他の誰かと出会って恋に落ちて変わるかもしれない。
もしそんな相手ができたとき、契約がかなりの足枷になる。万が一その相手の影響で悪の帝王にならない可能性があるなら契約はしないほうがいいんじゃないかとオフェリアは思ったのだが……。
「ないね」
「即答!? いや、今はそうかもしれないけど、絶対契約したら後悔するって! 私のこと嫌いになったり一緒にいるのが苦痛になったりするかもしれないでしょ!? 早まったことはしないほうが賢明だと思うけど」
「いや、契約しないほうが後悔するよ。それに、僕がキミを嫌うことを心配するのなら、オフェリアが僕にずっと好かれる努力をしてくれれば大丈夫だよ」
「お、横暴だ……」
「それで? 僕と契約するの? しないの?」
リアムによってオフェリアは席の隅の方に追いやられてしまう。彼はじりじりとオフェリアに近づいてきて、覆い被さるように距離を詰めてきた。いわゆる壁ドン状態だ。
「契約したら、リアムは悪の帝王にならない?」
「もちろん。約束する」
「なら……してもいいけど」
か細い声で答えると、リアムがとても嬉しそうに微笑む。そんな彼を見て、オフェリアはなぜかキュンと胸が甘く疼いた。
(何でそんなに嬉しそうなの)
あくまで任務のため、世界平和のための契約のつもりなのにどうしてそんなにも嬉しそうにするのか困惑するオフェリア。
リアムにとって自分はどういう立ち位置の存在なのか全く理解できないまま、重ねられる手。指を絡めるように繋いだあと、「こっちを見て」とリアムに唇が触れそうな位置で囁かれてオフェリアは緊張で生唾を飲み込んだ。
「じゃあ、早速契約しようか」
「え、今するの?」
「鉄は熱いうちに打てって言うでしょ?」
リアムはにっこりと微笑むと、戸惑うオフェリアと繋いだ手に力を入れる。
(リアムの魔力を直に感じる。何だろう、この懐かしい感覚)
初めてなはずなのに心地よいと感じる。
こうしてリアムに触れると、未来でリアムと繋がっているというのが何となく理解できてしまう自分がいた。
「我、リアム・シャルムは契約する。オフェリア・クラウンと永遠に離れず、共に生きることを。悪の道に進まず、彼女のために生きることを。もしこの契約が破られた暁には、代償として己が命を捧ぐと誓おう」
リアムが契約魔法の詠唱をすると、オフェリアとリアムは魔力の渦に包まれる。そしてその渦巻いた魔力はオフェリアとリアムの身体の中へと入っていった。
(これが、契約魔法)
魔法は基本的に放出するもので、入ってくるということは今までなかったため、ちょっと不思議な感覚に心が浮つく。
それと同時にリアムの魔力と相性がいいようで、彼の魔法が自分の身体に馴染んでいるのがよくわかった。
「これで契約完了だよ。僕はオフェリアのものだし、オフェリアは僕のものでもある。よそ見は許さないから、そのつもりで」
「わかった。……っん、ぅ!?」
頷くとそのまま唇が重なる。
自分の唇とリアムの唇がくっついて、「これっていわゆるキスというものなのでは?」とオフェリアが固まっていると、リアムはゆっくりと唇を離した。
「わ、私ファーストキスなんですけどっ!」
「ファーストも何も、過去も未来も僕以外としたら承知しないよ」
「えぇ……?」
「もう一生離さないから、覚悟してね」
(あれ、これもしかして選択しくじった? 実はリアムに騙されてる?)
オフェリアは何がなんだかわからないまま、結婚よりも重い契約をしてしまったことに気づいたが、そのときにはもう後の祭りであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます