4-13 速報、ウチュウジン襲来

『試してみるか……ッ!』


 もうなりふり構っていられる余裕はない。


 大福は思いついたことを、その是非に関わらず、試してみるしかなかったのだ。

 思い立ったが吉日とばかりに、大福は即行動を始める。


 しかし、そんな自由を許さない存在もある。


『何をしようとしているか知らないが、ジッとしていてもらおうか!』


 大福の移動を咎めるように、エルスウェムヤダの触手が伸びてくる。

 それに触れれば、もしかしたら連鎖的に蓮野が崩壊する可能性があるのだが、構わず大福はそれをぶち破る。


『退けェ!』

『な……ッ!』


 その行動に、エルスウェムヤダもたじろいだようであった。


 まさか逡巡しゅんじゅんする間もなく触手を払いのけるとは思っても見なかったのだろう。

 触手が避けるのも間に合わず、大福に触れて崩壊し、消えていった。


『貴様、こちらには人質がいるのを忘れているのか!?』

『犠牲の多寡たかぐらいは計算できるつもりだ!』


 蓮野を助けるために地球全体を危機に晒すのは、計算が合わない。


 大福の行動で仮に蓮野が崩壊したとしても、それは致し方ない犠牲である。


 友人を殺してしまった心の傷は大福を苦しめるだろうが、それはこの状況を引き起こしてしまった責任として甘んじる覚悟も決めた。


 だが、そうはならなかった。


 エルスウェムヤダの触手は蓮野には繋がっておらず、それどころか触手は完全にスタンドアローンだったようで、触手のみが消え失せた。


日和ひよっている……ッ!)


 その行動だけで、大福はエルスウェムヤダの精神状況を看破する。

 エルスウェムヤダは完全に守勢に入っている。


 人質を取って大福の行動を止めるところまでは良かったが、それ以上の事は考えていない。


 このままエルスウェムヤダの優位を保つためには、人質を手放すわけはない。

 大福への牽制が出来る手段が人質しかないのであれば、雑にそれを斬り捨てることはないのである。


 だが、それは守りの思考だ。

 土壇場どたんばの相手に通用するかどうかは、一か八かとなる。


 追いつめられたネズミがネコを噛むように、窮地に陥った大福が攻め手に出れば、エルスウェムヤダの守勢は一転して悪手となるのだ。


 事実、大福は蓮野に手が届く位置まで移動することが出来た。


 そこまで来たなら蓮野の表情まで見れるのだが、彼女は虚ろな瞳で宙を眺めている。


 どうやら意識を失っているのか、大福の接近にも特に反応を示していない。


(宇宙空間に無理やり連れて来られて死んじまったか……!?)


 可能性はなくもない。


 エルスウェムヤダにとって、人質としてわずかな時間さえ稼げればそれで良いのである。


 そこに蓮野の生死は重要視されていない。


(だが、それでも関係ない!)


 これから大福がやろうとしていることは、相当無茶だ。

 その無茶が通せるならば、蓮野の生死すら裏返るかもしれない。


 可能性は捨てない。

 希望を諦めない。


 そんな大福が、蓮野に向けて手を伸ばす。


『来い、蓮野ッ!』


 大福の手が蓮野に触れた瞬間――




 本来ならば対消滅が起きてもおかしくなかった。


 今や蓮野もエルスウェムヤダの一部になっているだろうし、大福の毒性にてられて身体が粉々に砕け散ってもおかしくなかったのである。


 実際、蓮野の周りを覆っていたエルスウェムヤダの部分は崩壊して塵芥ちりあくたと化した。

 だがそれでも、大福が力任せに引きずり出した蓮野の身体は、完璧に無事であった。


 同時に、蓮野とエルスウェムヤダに奇妙な感覚が襲い掛かる。

 支配者の書き換え、支配権の消失。


 同時に起こった高度な能力の影響に、エルスウェムヤダも反応が遅れたほどである。




「―――、――――」


 無事に引っ張り出された蓮野の身体。


 すぐに大福が作り出した衣服が現れ、蓮野の体を覆う。


 蓮野はしっかりと生きていた。エルスウェムヤダから引きずり出された途端に、瞳に生気が戻り、しっかりと大福を見ている事がわかったのだ。


『蓮野、ここでは声は届かないぞ』


 大福の能力によって、蓮野も宇宙空間である程度活動が出来るよう、バリアのようなものに包まれている。


 これがあるうちは、宇宙服を纏っているのと同じ環境になるはずだ。


『き、貴様、何をした!?』


 動揺したのはエルスウェムヤダであった。


 地球へ伸ばしていた触手も動きを止め、起こった事象じしょうに理解が追いつかないようである。


『お前から蓮野の支配権を奪った。お前の眷属だった蓮野は今、俺の眷属として生まれ変わったんだよ!』


 大福が行ったのは、エルスウェムヤダからの支配権の強奪。


 蓮野の支配権を強引に奪い、そのまま自分の眷属としたのである。


『これで蓮野はお前のいうことを聞かなくても良いようになった。俺と蓮野が敵対する理由はない!』

『そんなバカなことが……ッ!』

『ようやくテメェをぶちのめす障害は取り除かれたようだなぁ!』


 懸念点けねんてんであった人質は解放され、大福の保護下にある。

 もう攻めあぐねる要素は一つたりと存在していない。


『覚悟しろよ、これまでの恨みつらみ全部乗せて、百倍返しにしてやるッ!』

『ぐ……う、うううううう!!』


 万策尽き、ぐうの音しか出なくなったエルスウェムヤダに対し、大福は再び構えを取る。


 今回は先ほどとは違い、石を投げればエルスウェムヤダのどこかに当たるほど、的がとんでもなく肥大化している。


 なおさら命中させやすくなったエルスウェムヤダを見て、大福は笑みを浮かべた。


『じゃあな、クソ野郎ッ!』

『貴様のような、出来損ないにぃぃぃぃぃぃいいいッ!』


 最後の抵抗か、エルスウェムヤダが全触手を大福に向けて打ち込んでくるが、それはむしろ大福にとってはありがたい事である。


 触手は大福に触れた傍から崩壊し、消滅していく。

 そして、それが大福を圧し留める手段には至らない。


『うおおおおおおおおおおッ!!』


 咆哮と共に、大福は解き放たれた弓矢の様に発射される。


 縦横無尽じゅうおうむじんに宇宙空間を飛び回り、エルスウェムヤダの細胞の一片にまで狙いをつけ、それら全てを消滅させきる。


『ぐうううおおおおおおおおおおッ!!』


 消滅の反応はそのエネルギーを光に変え、宇宙空間へと発散される。


 巨大なエルスウェムヤダが、その身体の全てを崩壊させた時、宇宙にまばゆい太陽がもう一つ産まれたかのような特大の光が発生した。


 地球でそれを観測した人間は、すぐに秘匿會に情報処理されたのだが、一時はワッと話題になった。


 未確認飛行物体の急接近、宇宙人の襲来か、と。

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