4-12 人質
まるで小爆発のような衝撃が起こったかと思うと、大福も矢田も全く真反対に吹っ飛んでいく。
猛スピードというには狂った数値のスピードによる突進で体当たりをすれば、当然大福の身体は無事でいられるはずもなく、ぶつかった瞬間に弾け飛ぶはずであったのだが、それも因果の捻じ曲げによって身体は何事もなかったかのように無事である。
逆に矢田は大福に触れた瞬間から身体がボロボロと崩壊し、人間の身体を保てなくなっていた。
『ぐ、おおおお、貴様、木之瀬……大福ゥ!!』
『はは、イケメンが形無しだな!』
バッキバキに割れていく矢田の身体を見て、大福は勝利を確信し、指をさして笑う。
人が死ぬところを指さして笑う、とか言う外道じみた行為のただなかであったのだが、しかしその大福の笑みが一瞬にして凍り付く。
バリバリと割れていたのは、矢田の身体だけではなく、周りの空間全てにヒビが及んでいたからだ。
『な、なんだこれ……ッ!?』
『僕に……本気を出させたな!』
まだ終わりではない。
ひび割れた宇宙空間の奥から、先ほどから何度も登場していた白い触手が何万、何億という本数で溢れだしてきており、ヒビ割れを押し広げている。
ガラスの様に割れた空間は、そのうちボロボロと崩れ去り、その奥に隠されたいたものをさらけ出す。
『……でかすぎだろ』
それは地球を覆ってしまいそうなほどに巨大な、青白い触手の塊。
伝説に
視界全てが触手で埋めつくされる中、それでも大福は冷静であった。
『どれだけ数を増やそうと、俺には触れる事も出来ないぞ』
『ああ、そうだろうさ。だが、これならどうかな?』
一本の触手が、ビュと伸びる。
それは大福の頬を掠め、そのまま通り過ぎて行った。
『何のつもりだ?』
『貴様の弱点を用意する』
『俺の……弱点?』
矢田の言っている意味がわからなかった。
だが、この時に大福は攻撃に転じていれば良かったのである。
様子を見ている間に、決着をつけてしまえば話は簡単だったのだ。
『僕が狙ったのは、コイツだ』
大福を掠めた触手が戻ってきたかと思うと、その触手の先に絡め取られた人影が確認できた。
それは、見紛うはずもない。
『は……蓮野!?』
蓮野かなでは元々、エルスウェムヤダによって産み出されたモノであり、人間としての毒性を持ち合わせていない。
蓮野の身体は触手に絡め取られ、そのままエルスウェムヤダの一部と化してしまった。
ご丁寧に、『ここにいるぞ』と主張するかのように、蓮野の上半身だけはよく見える部分に生えている。
『テメェ……』
『おっと、近付くなよ。貴様が僕に触れれば、この娘も同時に崩れ去るぞ』
先ほど見た通り、人間の毒による対消滅は連鎖する。
崩壊が始まった部分だけに留まらず、それは根元にまで波及してしまうのだ。
大福がエルスウェムヤダに少しでも触れれば、その瞬間から蓮野の崩壊も決定づけられる。
『貴様はこの娘を、よく気にかけていたようじゃないか。そんな彼女がどうなっても良いというのならば、さぁ、僕を殺してごらんよ』
『ミスティックともあろうもんが、女の子を人質に取るとは語るに落ちたもんだなッ!』
『なんとでも言うがいい! 僕は勝利を諦めない!』
『そんな消極的な手段が、勝利に届くと思っているのかよ!?』
『だったら攻撃してみるが良いさ! 僕は構わないぜ?』
エルスウェムヤダの挑発に、しかし大福は動くことが出来ない。
蓮野をこのまま見殺しにすることを、良心が咎めたのだ。
(蓮野は元々敵だ。心置きなく、討ち果たしていいはずだ。……だけど)
大福の脳裏には、確かに過ごした蓮野との思い出がフラッシュバックする。
長い期間ではなかったが、それでも記憶に刻まれた蓮野の顔が離れてくれない。
冷徹には、なれなかった。
『今度こそ、そこで見ているがいい! 僕は地球を手に入れ、ミスティックの頂点に立つ!』
再び、エルスウェムヤダの触手がうごめき始める。
億を数えるそれらの触手一本一本が、地球に向けて侵攻を始めたのだ。
『待て、エルスウェムヤダ! 俺の毒性に耐えられないお前が地球に手を出しても自滅するだけだろ!』
『安い脅し文句だ。貴様は勘違いしているようだが、地球と同化することで人間の持つ毒への耐性は得られるんだよ』
それが本当かどうかはわからない。大福にはそれを確かめる手段はない。
だが、人間の持つ毒性がエルスウェムヤダを圧し留める手段にはなりえなかった。
そうなると大福に切れる手札がなくなってくる。
何か有効そうな手段を探そうにも、そんなことをしている余裕もない。
(何か、何か打開策を……ッ!)
猶予は少ない。
手をこまねいていては取り返しのつかない事になる。
それでも冴えた名案は思いつかない。
今度こそ万事休すと思ったその時、ふととある言葉が思い浮かぶ。
『ミスティックの力は何でもできる』
今はそれを信用するしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます