4-11 必殺の手段
元々、ミスティックと人間がまじりあった存在という、本来ありえない生命が誕生したのは、地球がオルフォイヌに譲歩した結果であった。
人間の持つ毒性に対する完全な抵抗力を有さなかったオルフォイヌは、人間に触れれば死ぬはずだった。
特に、不完全な儀式によって呼び出され、瀕死と呼べるほどに弱っていた状態ならばなおさら、少し人間に触れるだけでも消滅してしまうはずだったのである。
それなのに、木之瀬美樹の胎内に宿ることが出来たのは、地球が木之瀬美樹の毒性を取り除いたからであった。
人間が持つミスティックへの毒性というのは、高度な精神であると推察されていた。
そしてその時、木之瀬美樹は度重なる拷問の末に精神を壊していた。
ゆえに、木之瀬美樹はオルフォイヌを受け入れることが出来、また身体の回復が行われてもその精神までも修復されることはなかった。
ミスティックに対する毒性を失った木之瀬美樹は、オルフォイヌにとってとても良いゆりかごになっていたのである。
そして、その胎内で形成された赤子もミスティックに対する毒性を全く持たなかった。
これは赤子が精神をおかしくしていたわけではなく、人間とミスティックの融合体という未曽有の存在が呼び起こした、全く偶然の出来事であった。
人間でありながらミスティックに対して毒性を持たず、それゆえに身の内に宿したオルフォイヌに対しても全く毒性を発揮しない。
結果、人間である部分とミスティックである部分は、全く反発することなく共存し、さらに人間としての部分を表面上に現すことによって、他の人間との接触も全く問題なく行えていた。
絶対にまじりあう事がないはずだった二つが、奇跡的に混ざり合った形。
それが大福である。
あの日、オルフォイヌと地球が打った大博打が、ここに結実する。
大福はミスティックの部分を全て捨て去り、完璧に人間になったのだ。
結果、本来の人間が持っているミスティックに対する高い毒性をも取り戻し、エルスウェムヤダの作り出した触手も触れた瞬間に対消滅を起こしたのだった。
だがそれでも、と矢田は奥歯を噛む。
『バカな、もしそうなら、貴様の身体も無事ではいないはず!』
『忘れたのか? 俺には今、因果の捻じ曲げの能力もかかっている。俺が死ぬことはありえない』
先ほど矢田が看破した通り、大福には因果の捻じ曲げが起こっている。
大福が死ぬような怪我を負ったとしても、その因果だけが捻じ曲げられ、どうやっても大福が生きている様に現実が改変されるのだ。
残る結果は触手の消滅のみ。
『俺はお前に対する最強の矛を手に入れた。さぁ、お前はどうする……ッ!?』
『くっ……!』
やおら構えを取る大福に対し、矢田は警戒を強める。
何せ今の大福はミスティックに対する全身凶器である。
どこか身体の一部が掠めれば、それだけでミスティックに対する必殺となるのだ。
矢田も大福と同じように因果の捻じ曲げが出来れば即死も回避できるが、今の矢田では高難易度過ぎて扱うことが出来ない。
『悩んでる暇はないぞ!』
矢田がどう手札を切るか悩んでいる間に、大福が行動を開始していた。
行動、とは言っても単純なものである。
いつぞや、夏の海で見せたように、
たったそれだけの事が、矢田にとっては致命傷になり得るのだから。
言わば人間大の銃弾のようなもの。
ミスティックの能力による殺人的なまでの加速が、本領を発揮する。
『ぐっ!』
最高速度でも時速二十一万キロをマークした大福の突進は、ぶつかるだけでも両者に破滅的なダメージを与えるだろう。
だが、矢田はそれを間一髪のところで避ける。
両者の接点はなく、猛スピードで駆け抜けていった大福は、見る間もなく米粒よりも小さくなっていった。
そして、それだけで終わるわけもない。
大きく弧を描いて旋回した大福は二度目の突進に移っている。
『馬鹿め! まっすぐしか動けないなら、迎撃し放題だ!』
今度は矢田も対抗策を打つ。
いつぞや見せた光の球を幾万も呼び出し、自分の周りに浮かせる。
それらは一つ一つがとんでもない破壊力を持つビームを発射することが出来、それが幾万発となれば大福に回避は不可能だろう。
『消え失せろ、出来損ないがッ!』
矢田の合図と共に、一斉にビームが斉射される。
『バカはお前だろうがッ!』
だが、それに対し大福は回避行動を一切取らない。
何故ならその程度の妨害は障害になりはしないからである。
大福に触れたビームはその瞬間から崩壊をはじめ、バリバリとひび割れて崩壊していく。
『なっ!?』
その現象を目の当たりにした矢田は自分の失策をようやく理解した。
今の大福にはあらゆる『死』に対する抵抗力がある。
矢田がどれだけ大福を殺そうとしても、因果の捻じ曲げによって大福の『死』は強引に回避される。
矢田はまず、そのトリックを突破しなければ大福に対して有効な攻撃手段を持つことすら叶わなかったのだ。
それに気づく事が遅れたことにより、事態は急速に終わりへと傾く。
『これで終わりだッ!』
迎撃に注力し、足を止めていた矢田。
バカみたいな速度で飛行する大福を回避する余裕はすでになくなっていた。
両者が激突する。
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