4-7 看破
『よぉ、先輩。俺程度を殺すのに、どうやらてこずっているようじゃないか』
『黙れ、貴様の戯言に付き合う気はない』
『まぁ、そう言うなよ。俺が気付いたことについて、少し話させてくれ』
そう言う大福の言葉に、矢田の反応はなかったが、攻撃の手は止まる。
おそらく、矢田の方も次の一手に悩んでいるのだろう。
大福が攻撃を回避する手段がわからなければ、矢田も攻めあぐねる。
両者ともに決め手に欠ける中、ちょっとした雑談には付き合ってくれるようだ。
『ちょっと振り返ってみたんだが、お前、色々と面倒くさい手順を踏むよな。夏の一件をとっても、ハル先輩を殺すだけならもっと簡単に殺す方法なんかあったはずだ』
大福が言っているのは、今年の夏、矢田がハルを拉致し、そのまま地球の影響外へ飛ばして殺そうとした件である。
矢田の目論みはある程度成功し、ハルは能力を遮断する壁で作られた水槽の中へ入れられ、そのまま宇宙に打ち上げられるところであった。
だが、冷静に考えれば、そんなまだるっこしい手を使わずとも、ミスティックであれば幾らでも殺害手段はあるはずなのだ。
それをしなかった理由とは何か?
『第二に、俺を使って先輩を無力化しようとしたのも、なんだか遠回りな気がする。俺をミスティックとして覚醒させるリスクを背負ってまで、ハル先輩をどうにかするより、もっと色々とやりようはあったはずだ』
秋の事である。矢田は大福をミスティックとして覚醒させ、ハルの地球の娘としての特性を利用して同士討ちを狙ったようであった。
だがこれも面倒くさい手段だ。
先に述べた『夏にハルを殺そうとするのに面倒くさい手段をとった』という件がこれにかかっており、そうせざるを得なかったとしても、こちらの違和感が払拭しきれなければ土台から崩れてしまう。
ハルを直接殺せるのならば、大福をミスティックに覚醒させるのは単なるリスクでしかないのだ。
『第三に、蓮野の立ち回りも怪しい。考えてみれば事前に俺の前に現れたのも、お前が指示してたんじゃないのか? 少しでも俺の動揺を誘うために』
つい先日の事、帰り道に急に現れた蓮野は、大福としばし会話をしていた。
あのタイミングで蓮野が大福の前に現れた事、それ事態が謎であるし、あの時の会話内容も矢田の指示で大福の動揺を誘うつもりだったのであれば、なんとなく理解出来る気がする。
『極めつけに、今の立ち合い。……お前、どうして物理的な手段しか使わないんだ?』
大福が抱いた最大の謎は、これであった。
『ミスティックの能力を使えば、直接物理的な影響を与える手段以外にも、色々手札はあるはずだ。お前はどうして、そうしない?』
大福の問いに、矢田は黙して答えない。
矢田の行った攻撃は触手による飽和攻撃のみ。規模や出力は常識外れではあっても、結局は物理的な手段に過ぎない。
テレパシーを使えるミスティックでありながら、精神的な影響を与えてこようとはしないし、他にも多岐に渡る特殊な方法を用いないのに、大福は純粋に疑問を抱いていたのだ。
最初は何かの罠なのではないかと警戒していた。
だが、これまでの事を総合的に考えると、一つの推論に行き当たった。
『お前がこれまで、
大福の推論が、一つの結論を導く。
『お前、大して強くないだろ?』
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