4-6 トリックだよ

『が……ッ!』

『所詮は能力に覚醒したての出来損ない。僕の敵では――』




『危なかった』

『――ないんだ……!?』


 奇妙な感覚があった。


 矢田は確かに大福の身体を貫き、その命を奪ったはずだった。

 しかし、大福は矢田が放った触手を掴み、握り潰している。


 大福の身体を貫いたはずの触手を、だ。


『なんだ……?』


 襲われた奇妙な感覚を手繰っても、大福がろうした策に思い当たらない。

 矢田は何をされたのか、わからなかった。


『貴様……何をした?』

『少しでも先輩の矜持があるなら、当ててみせろよ』

『口答えを……ッ!』


 生意気な大福の言葉に対し、矢田はまたも無数の触手を産み出した。

 奇妙な手段を取ったとしても、今度こそかわしきれるものではあるまい、と。


『圧倒的な物量で圧し潰す。二度目の奇跡を起こせるなら、やってみるがいい!』

『……なるほど』


 矢田の背後に展開された、宇宙を埋め尽くすかのような触手の群れに、しかし大福は冷静に頷く。


 その表情からは何を考えているのか読み取りにくいが、とにかく触手を脅威と見ているような素振りはない。


『その涼しい顔がいつまで続くか、見ものだなッ!』


 矢田が合図すると同時、無数の触手は雪崩なだれのようにうごめき、大福へと襲い掛かった。


 その数は何百程度のモノではなく、何万という規模であり、白い表皮がぐにゃぐにゃと動く様は本当に気味の悪い雪崩の様であった。


 逃れる隙も無い飽和攻撃。


 それに晒された大福であったが、特に何をするような素振りもなく、そのまま触手の波に埋もれて行った。


『ははははッ! 大口をたたいてそれか!』


 矢田の哄笑にも特に反応はなく、触手がぎゅうぎゅうと一点に集中していく中で矢田はもう一度確かな殺人の感触を得、




 そしてもう一度、奇妙な感覚が襲い掛かってくる。


『……まただ』

『間一髪、ってところだな』


 またも大福の平気な声が聞こえたかと思うと、彼は触手の集まったところからズレた場所で平然としていた。


 見る限り、怪我の一つも負ったようではない。


 明らかにおかしい。大福が何かをしているのは明白であった。


 だが、矢田にはそれがわからないでいる。


(この状況は俺に有利だ)


 ポーカーフェイスの下で困惑している様子の矢田を見抜きながら、大福は自分の優位を実感する。


 だが、それでも一手足りない。


(相手の攻撃を躱す方法はあっても、俺には攻撃手段がとぼしい……)


 今のところ、矢田の攻撃を回避することには成功しているが、それに集中してばかりでは勝利を得ることは出来ない。


 どうにか相手を攻撃しないことには、千日手せんにちてを一生続けるだけになってしまう。

 もしくは、そのうち矢田がトリックを看破して、大福の優位が崩れるかもしれない。


 その前に、どうにかしなければならない。


(勝利の糸口が、どこかにあるはずだ。それを見つけなければジリ貧……)


 大福が勝つためには、どうやら賭けに出なければならないようだった。

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