4-8 意趣返し
大福が結論を口走ったのとほぼ同時、大福はどこからともなく現れた巨大な腕に掴まれていた。
先ほどの触手と同じく、気味悪いほどに白い表皮をしたその腕は、その大きさに見合った剛力で大福を締め上げ、逃がすことを許さない。
『良くしゃべるカスだ。間違った推論を語るのが、それほど楽しいか?』
『俺の推論が間違っているというなら、暴力でなく言葉で負かしてみせろよ』
『必要はない。力の差を教え込めば、貴様も冥土で理解するだろう! 僕と貴様の力の差というものをな!』
身動きの取れない大福に向け、矢田は指を差す。
指先にはいつぞや見せた光の球が浮いている。
次の瞬間、その光の球は弾けるようにギラつき、超破壊力を秘めたビームとなって大福に向けて発射された。
そのスピードたるや、瞬く間というのに相応しく、光に肉薄するような瞬速。
大福が回避をする間もなく、それが着弾し、大きく炎を上げて爆ぜた。
たとえミスティックの身体を持っていたとしても、その肉体を大きく抉るような、強烈な破壊力を持ち合わせたそのビーム。
大福が喰らって、まともに生きているわけがない。
なので、それもなかったことにする。
矢田を三度襲う奇妙な感覚。
その直後には、巨大な腕からも逃れた大福がちょっとズレた場所で平然と突っ立っている。
『……確かに殺した感覚の後、生きている貴様が現れる。これは単純なテレポートではない』
意趣返しのつもりなのだろうか、矢田がぽつぽつと言葉を編む。
『また、分裂や再生の類でもない。拘束した場所に残骸が残らないのがその証拠だ』
『その通り、お前が挙げたどの手段も、俺は使っていない』
『また、単なる防御でもない。それでは拘束から逃れている理由にならないし、僕が得た必殺の感覚がそれを否定している』
攻撃は確かに直撃しているはずなのだ。
触手に関しても、ビームに関しても、大福を殺したという確実な感覚は矢田にフィードバックしている。
その感覚すら騙しているのが、大福の弄している策なのは明白だ。
『こうなると考えられる手段は限られてくる。まず一つ、僕への精神影響。僕が貴様を殺したという錯覚を植え付け、それを本当だと思い込ませる。……だがこれはありえない。僕はその手の攻撃に対して完璧な防御を行っているからだ』
実のところ、矢田は大福を相手するのにも対策を怠っていない。
あらゆる攻撃に対する防御策を、事前に施しているのだ。
それゆえに物理的な攻撃に対しても、精神的な攻撃に対しても、最大限の防御を行うことが可能であったし、もしその手の攻撃を喰らった場合には即座に実感することが出来るはずである。
もし、矢田に錯覚を起こさせる精神攻撃があったとしても、そのアラート自体は矢田に届くはずなのだ。
それがないということは、大福が行っているのが精神攻撃でない証拠でもある。
『僕への攻撃でないとすれば、これは貴様が独自に行っている小細工。……察するに、時間操作か因果の捻じ曲げだろう』
(……正解だ)
口には出さずとも、大福も少し動揺する。
大福が行っているのは因果の捻じ曲げ。
大福が矢田の攻撃によって殺されたという事実が決定された時点で自動的に発動し、大福が死ななかった結果になるよう、現実を改変する。
とんでもない能力であるが、実際にとんでもなく難易度の高い技術である。
能力に覚醒して間もない大福がこれを使えるのも、その能力の由来がオルフォイヌという上級ミスティックによるものだからだろう。
もしこの能力が使えなければ、初手で死亡していた。
(綱渡りではあるが、現状はどうにかなってる……今のうちに攻めの起点を見つけなければ)
この因果の捻じ曲げを行う事により、強固な防御を手に入れた大福は、攻めに注力出来るはずだったのだが、その攻め手に欠けているのだからどうしようもない、というわけだ。
お互いに相手を打ち崩す一手を持たない状況。
そのピースがハマった時、戦況は大きく傾くことになる。
そして、その先手を取ったのは――
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