4-4 バカな人たち

 動揺した蓮野の瞳が揺れる。

 ハルの言葉に動揺してしまった事自体にも驚いていたのだ。


「私はエルスウェムヤダの『先触れ』……ただの人形です。私に心なんて……」

「ないなんて言わせないよ」


 蓮野が顔を背けようとしたのだが、ハルに頭をがっちりホールドされている状態ではそうする事も出来ず、辛うじて視線だけ離す。


 それでもハルのニヤニヤ笑いからは逃れることが出来ず、バツの悪そうな表情を浮かべた。


「な、何を根拠にそんなことを言うんですか」

「見てればわかるよ。あなたが恋する少女になってることなんかね!」

「こ、恋……!?」


 蓮野にとっては最上級の寝耳に水だったのだろう。

 動揺しすぎて目の泳ぎ方が尋常でない事になっていた。


「そ、そそ、そんなわけないじゃないですか! たとえ百歩譲って私に感情があったとしても、ここここここ、恋だなんて! そりゃ、確かにエルスウェムヤダの作戦のために木之瀬くんに近付いたりはしましたけど、それがまさか恋だなんて勘違いしてるんじゃないでしょうね!? ありあえませんから! 私が凡百の人間に恋をするだなんて、万が一にも起こり得ませんから!」

「めっちゃ喋るじゃん……」


 蓮野があんまりにも動揺してしまったので、逆にハルの方が引いてしまった。

 だが、これだけ動揺してくれれば最早言い逃れのしようもあるまい。


 そもそも、別に『恋してるんじゃない?』とは言ったが、大福の事とは言っていない。


 勝手にゲロってしまうのだから、語るに落ちるというのはこのことだろう。


「蓮野さんはァ、大福くんのどこが良いと思ったのかなァ?」

「だ、だから別に、良いとなんて思ってませんってば!」


「はぁ!? ウチとこのカレシに良いところないって言うんかぁ!?」

「え? 付き合ってるんですか?」

「え? ガチでショック受けてるじゃん」


 ハルと大福が付き合っていることを秘密にしていたのが、まさか蓮野の心をひっかくとは思っていなかった。


「え、だって、木之瀬くんはミスティックじゃないですか。朝倉さんは地球の娘ですよね? おかしくないですか? 水と油でしょ」

「ところがどっこい、大福くんは完璧なミスティックじゃなかったんだよねぇ。だから今、エルスウェムヤダを倒しに向かってるし、私と触れ合っても何の問題もない!」


「だ、だだ、ダウト! この人、嘘を言ってます!」

「残念ながら本当なんだなぁ。……疑わしいなら、自分で確かめてみたら?」

「どうやって……?」


 今現在、自由を奪われている蓮野。


 ハルも蓮野に自由を返すことはないだろうし、宇宙ではおそらく、大福とエルスウェムヤダがバトルの真っ最中である。


 もし大福とエルスウェムヤダの勝負に決着がつけば、その時点でどちらかが消滅していることになる。


 大福が消滅したなら言わずもがなであるし、エルスウェムヤダが消滅した場合でも眷属けんぞくである蓮野が無事でいられる保証はない。


 どの道、蓮野が大福とハルの関係性を確認することなんてできない。


「大丈夫!」


 しかし、そんな悲観的な蓮野に、ハルは首を振る。


「大福くんなら、なんとかしてくれる」

「何を根拠に……」

「特に根拠はないけど、きっと大丈夫だから!」


 無根拠な事を自信満々に言うのは、大福に影響されたからだろうか。

 ありえもしないことを、さも当然の様にいうハルを見て、蓮野も呆れたため息が出た。


「全く、バカな人たち……」


 しかし、その口元にわずかな笑みが浮いているのを、ハルは見逃さなかった。


****

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る