4-2 女の闘い
蓮野の周りに光の球が浮き始め、次の瞬間には一際強い光を放つ。
その光は一筋に収束し、少し弧を描きつつハルへと飛んだ。
(これは、矢田くんが使っていたビーム……ッ!)
夏の事件の日、矢田が大福に向けて放っていたビーム攻撃である。
一発一発が日下の放つビームと同等の破壊力を持っているにも拘らず、それが複数本、ハルに向かって飛んで来ているのだ。
しかし、対応は難しくない。
瞬く間に着弾するはずのビームだが、それでもハルにとっては弾速が遅い。
(矢田くんのビームよりも性能が落ちている……? いや、これも罠か……?)
幾つか疑念は浮かぶが、それでもビームをまともに喰らうわけにもいかない。
ハルは手を前に出し、殺到するビームに対して掌を見せた。
すると、散開して飛んで来ているビームが全て、ハルの掌の中へと収束し、元の大きな光の球へと戻った。
「お返しするわッ!」
そしてそれをボウリングの球よろしく、ハルは振りかぶって蓮野へとぶん投げたのである。
敵の攻撃をそのまま利用し、反射する。
明かな力量差がそこに窺えるようであったが、しかしそれでも蓮野は退かない。
眼前で腕をクロスすると、それにぶつかった光の球は四方八方へと弾け飛んだ。
学園の中央広場に飛び散った光は、着弾地点で弾け、地面に敷かれた石畳を粉々に砕いていく。
それを見ていた秘匿會の実働部隊が俄かに殺気立つ。
ここで黙って立っていれば、とばっちりは
「朝倉さんを援護しろ! あの少女を無力化するんだ!」
日下の指示で実働部隊が武器を構えて展開するものの、それはハルの望んだ展開ではない。
「日下さん! 手を出さないでください!」
「そうはいかない。彼女もミスティックの関係者だろう。我々だって戦うためにこの場にいるんだ!」
秘匿會として、ミスティックと相対する覚悟と準備は出来ている。
そのうえで相手にならなかったとしても、ハルが攻撃する隙を作るだけでも大戦果となるだろう。
そのために、実働部隊は命を散らすのも惜しくはないと考えているのだ。
しかし、そもそもハルはここで蓮野を無力化するつもりであっても、撃退するつもりはサラサラない。
「あー、もう!」
言う事を聞いてくれない日下たち。このまま言葉を連ねても
ハルの目が紅く輝き、漆黒の髪色に若干の緋が灯る。
「場所を変えるよ、蓮野さん!」
「は……?」
蓮野が戸惑っている間に、ハルがもう一度、ボウリングの球を投げるような素振りを見せる。
しかし、その手に球はなく、そもそも球を投げるつもりすらない。
ハルが行いたいのは、例えば水を浴びせかけるような、例えば地面の砂を投げつけるような、そんな行動であった。
その動きに影響されるかのように、蓮野の立っている場所の地面が、急に変化を見せる。
まるで見えないショベルカーが、そのアームを地面に突き立てたかのように、石畳が弾け飛んだのである。
そして、
「き、きゃああ!?」
盛り上がった地面はそのまま空中高くへと投げ飛ばされ、当然、その上に立っていた蓮野も遥か上空へと放り出された。
それを見て、日下が動揺する。
「どういうつもりだ、朝倉さん!」
「私はあの娘と戦うつもりはありません」
「彼女は敵だぞ!」
「そう。
日下の言葉に取り合わず、ハルは軽くジャンプでもするかのように、空中へと身を躍らせた。
すると、大福が空へ飛んでいったのと同じく、ハルの身体も重力を無視するかのように空へと浮き上がり、そのまま蓮野を追いかけて飛翔していった。
残された秘匿會員は、呆然とするしかなかった。
一方、空中へ投げ出された蓮野は、なんとか能力を操り、姿勢を制御する。
「くそ、なんなの、あの女……」
「やっぱり、飛べるね。良かった良かった」
ぐらつく頭を振っていた蓮野に追いついたハルが、笑顔を見せる。
「ここなら邪魔も入らないでしょ」
「……私と一対一でやりたかった、ってことですか」
「まぁ、うん……ちょっとニュアンスは違うけど――」
「だったら、お望み通り!」
蓮野の右手が俄かに輝きを見せる。
先ほど、遠距離攻撃の手段として使っていた光の球を、今度は右腕にまとわせ、剣のように変形させて襲い掛かったのだ。
「おわっ! ちょっと、話を聞きなさいよ!」
蓮野の攻撃を回避しつつ、ハルは能力を試みる。
先ほどから、蓮野本人を対象とした能力が効かないのだ。
(あの娘本人が、というよりは、おそらく彼女の周りに膜が張ってある……)
以前、ハルが蓮野の思考を読むことが出来た実績がある。
それを考えれば、蓮野はミスティックの切れ端とは自称していても、矢田とは全く違う存在である事が窺えた。
おそらく、蓮野に地球の娘の能力は通用する。
だが今現在、能力を受け付けないのは、矢田が作り出していた水槽と同じ理屈なのだろう。
あの水槽の壁はミスティック由来のモノであり、ハルの能力を完璧に
その壁を薄皮のように変形させ、蓮野の周りを覆っているから、蓮野自身にハルの能力が通らないのであろう。
(まずはそれを取っ払わないことには……)
「何かに気を取られながら、私と戦う余裕があるんですか!?」
ハルが狙いを定めている間にも、蓮野の攻め手は休むことを知らない。
剣として変形したモノに加え、さらに自分の周りにビットのように展開した光の球から、幾本ものビームが飛び出し、ハルへと襲い掛かってくるのだ。
ハルはそれらを、能力でバリアなどを展開させつつ全て防ぎ、いなす。
先ほど、蓮野のビームを丸めて打ち返した時に確信したことだが、両者の間には相当な力量差がある。
ハルが多少油断していても、蓮野に負けることはない。
「少し、試してみるか!」
このまま防戦でいても何も解決しない。
ハルはこちらから打って出てみることにした。
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