2-6 確かな絆
「ど、どうしてここが!? 絶対にバレないはずじゃ……!?」
戸惑う大福に対し、ハルはまっすぐに、大股で、早足で近付く。
そこに一言も言葉を挟まず、ただ一直線に近寄ったのだ。
そして、大福を間合いに収めた瞬間、
「ふんッ!!」
「ぐあッ!!」
鉄拳一閃。
ハルの握りしめた拳が大福の顔面に突き刺さり、その勢いで大福は床に倒れ込んだ。
「い、いきなりなにするんスか!?」
当然、抗議の声を上げる大福であったが、ハルは構わず大福の上に馬乗りになり、胸倉を掴んでグイと引き寄せる。
二人の顔が真正面から相対する。
「ハル先輩……」
そこで初めて、大福はハルの目に涙が浮いているのを見た。
「私が……ッ! 私が、どんな気持ちで……ッ!!」
気持ちは、感情は、上手く言葉に出来なかった。
積もり積もったありとあらゆるモノが、我先にと口から出そうになって、上手く整理がつかなかったのだろう。
だが、それだけで伝わる気持ちもある。
大福は本当にバカなことをした、とようやく理解したのだ。
彼女を泣かせるつもりはなかったのに、結果的にとんでもなく悲しい思いをさせてしまったのだ。
「ごめん、先輩」
「許すもんか! どれだけ謝ったって、絶対に許さないからッ!」
「ごめんて……もうしないから」
顔を真っ赤にして激昂するハル。
そんな彼女を、大福は優しく抱きしめた。
上半身を起こし、彼女の背に手を回し、出来るだけゆっくり、優しく。
ハルの顔が大福の胸に収まり、じんわりと暖かさが伝わる。
その後しばらく、ハルは大福にしがみつきながら、声を上げて泣いた。
「落ち着きましたか?」
「……うん」
ひとしきり泣いた後、ハルは鼻を啜りながら大福の胸から顔を離す。
そして腫れぼったい目で大福を見上げ……いや、睨みつけた。
「マジで許さないから」
「ごめんて……俺だって色々考えた結果なんよ」
「それでも! なんで私に一言も相談しないわけ!?」
それは確かにごもっともなのである。
大福は自分の中だけで完結し、答えを出し、それしかないと思い込んだ。
誰かに相談すれば、もしかしたらもっと良い案が出たかもしれないのに、その可能性を頭から捨てたのである。
それに、別れを切り出すにしても、事前に『こういう理由があって一緒にはいられない』との話があれば、受け取る側にもある程度の覚悟が出来る。
大福のように、急に『俺、君とは一緒にいられないから! じゃね!』なんて身勝手も
「……結局、大福くんは外に出るつもりはあるの?」
「あの、それは……はい。今しがた、そう言う話になりました」
「そう言う話? どゆこと?」
「さっきまで地球と名乗る人物が現れておりまして……」
大福はつい先ほどまでのいきさつを、ザっと掻い摘んでハルに伝える。
それを聞いて、ハルは『なるほど』と頷いた。
「つまり、私と大福くんが協力すれば、エルスウェムヤダを撃退できる!」
「たぶん、そう言う事です」
確率がどの程度あるものなのかまではわからない。
しかしそれでも、希望がないわけではない。
大福とハルが別れず、地球も今まで通り無事でいられる手段。
それが見つかったのだ。
「じゃあ、大福くんも大手を振って外に出られるわけだ」
「まぁ、バツは悪いっスけどね……」
恰好つけて封印に甘んじた手前、どんな顔をして日下達の前に出れば良いのか、未だにわかりかねている。
しかしそれでも、より良い未来を手に入れるためには、外に出るしかない。
「ハル先輩、俺と一緒に戦ってくれますか?」
「……やだ」
「えっ!?」
手を差し伸べる大福に対し、ハルは何故かプイとそっぽを向いてしまった。
「今の流れ、どう考えても手を取るべき場面でしょ!?」
「私は怒ってるんだから! 大福くんの思い通りになると思ったら大間違いよ!」
「んな子供みたいなこと言って! 地球が大変って時ですよ!?」
「だって、大福くん、
「そんなことない! 俺、めっちゃ誠心誠意謝ってますやん!!」
大福は先ほどから何度もハルに対して頭を下げている。
実際、悪い事をしたと思っているし、今回、話がこじれた原因も自分にあるということは重々わかっているつもりだ。
だからこそ、ハルからのなじりに対しても全く反論せず、受け入れているわけで……。
「これ以上、何をどうしろっつーんですか!?」
「何を、どう……か」
大福に言われ、ハルは彼の手を取った。
そして大福の掌を両親指でぐにぐにと押す。
「な、なにしてんスか……?」
「私はこの一か月、好きな人と一緒にいられずに、大変寂しい思いをしました」
「え、えと……それはすみませんでした」
「だから、その
「えっ!?」
それの意味するところは、つまり――
****
エレベーターのドアが開く。
繁華街の、とあるビル。その奥まった場所にある特別なエレベーターは、通常誰も乗ることがない。
しかしこの時、大福とハルがそれに乗って地上へと戻って来ていた。
「おや、
それを待っていたのは日下と羽柴。
二人を見て、ハルがペコリと頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました。丸く収まりました」
「そのようだ」
日下も二人の様子を見て、思わず笑みがこぼれてしまった。
大福もハルも、照れくさそうにしながら、繋いだ手を離そうとはしていないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます