2-5 お迎え
そう言われれば、なるほど、地球がハルと並び立つ最終手段として大福を起用しようとする意味もわかる。
この地球上にハルと同じ程度の異能力を持ち合わせ、ミスティックに対抗しうる存在というのは大福の他にいないのだ。
「……あなたが木之瀬美樹の身体に宿った時、私はオルフォイヌと取引をしました」
「取引……?」
「あなたが人間のまま育てば私の勝ち、ミスティックとして完全に覚醒した場合はオルフォイヌの勝ち。オルフォイヌが勝てば、エルスウェムヤダが侵略するのを待たず、オルフォイヌが地球を支配していたでしょうね」
「
「そうしなければ、この
「……つまり、この状況もある程度は予見していたと?」
「エルスウェムヤダが侵略せずとも、他の個体がやってくるのは
この宇宙にはミスティックは複数体存在しているらしい。
何十体なのか、何百体なのか、それは判然としないが、地球を狙っているミスティックは他に幾らでもいる。
それに対して、地球は対抗する手段を考えていた、ということだ。
だが、それが気に食わない。
「アンタの話、理解はできるが納得は出来ねぇ」
「……何か疑問がありましたら、質問してください。可能な限り答えます」
「じゃあ、どうしてハル先輩を選んだ!? どうして先輩は、アンタの気まぐれで選ばれて、苦しんで生活する必要があったんだよ!?」
生贄として毒性を高めるのが誰でも良かったのなら、ハルでなくても良かったはずだ。
地球が適当に産み出した、毒性だけ強めた存在を作り出せば、それで済む話である。
しかし、青葉は首を振る。
「先ほども話したように、ミスティックに対して毒性を発揮するのは高度な精神です。それはインスタントに作り出した生命では持ち合わせず、人間の成長によって培われます」
「それは……アンタの能力でどうにかできなかったのかよ!?」
「私も万能というわけではありません。とりわけ、人間に対する制御は難しいものがあります。私が強く影響出来るのは、適性を持った人間のみです」
「それが先輩だったっていうのか……?」
「他にも複数人います。……例えばこの身体、森本青葉もその一人です」
「なっ……」
「彼女の持つ『神託』の能力というのは、私の影響を受けやすい体質を言い換えたものです。つまり、朝倉ハルも『神託』の能力を持ち合わせた一人でした。それが発現する前に、私が地球の娘として能力を与えただけです」
「で、でも他にも何人か『神託』の能力者はいるって……」
「彼らを生贄にしますか? 彼らにもまた、あなたが朝倉ハルを想うのと同じように彼らを大事に想う人間はいます。そう言った存在を無視して、自分の欲求を優先しますか?」
そう言われると、もう何も言えなかった。大福も、そう反論されるのがわかっていたのだ。
誰を生贄に捧げても、悲しむ人間はいる。
それが今回、たまたま朝倉ハルという少女だっただけである。
「勘違いしていただきたくないのですが、私だってミスティックなどという存在がいなければ、人間どころか、私の中に住むあらゆる存在を犠牲にしたくはない。それを最小限の被害に留める事が、私の仕事だと思っているだけです」
「わかってるよ、チクショウ!!」
地球からの追撃を受け、大福は椅子の背もたれに体を預け、顔を手で覆った。
地球も出来るだけのことはしている。
悲しむ人間が最小限で済むように。
その結果、ハルが選ばれ、そして……
「……そうか! 俺が協力すれば、もしかしたらハル先輩が犠牲にならなくても済むかもしれない!」
「その通りです」
ピンと来た考えを口走ると、地球がそれを肯定する。
地球が青葉の身体を借りて、こんなところまで大福と話をするためにやって来たのは何故なのか。
それは大福の協力を得るためだ。
被害を最小限にしようとしている地球が、大福に助力を求めているということは、もしかしたら大福が考えているよりも被害が少なくなるかもしれない。
具体的には、ハルを生贄にしなくても良いかもしれない。
急に大福は身を乗り出し、青葉に顔を近づけた。
「ど、どうすりゃいい!?」
「簡単な話です。あなたはミスティックに比肩する能力を持っている。その力を十全にぶつけ、エルスウェムヤダを撃退してください」
「そんなことが出来るのか!?」
「可能性は充分にあります。……しかし、確約は出来ません」
それはそうだ。地球も万能ではないと言っていたばかりである。
むしろ、絶対に上手くいく、と言われた方が胡散臭い。
だが少なくとも希望は見えた。
「可能性があるなら、俺はやってやる。先輩を犠牲にしなくても良い未来を掴み取る!」
「そのためには、あなたはここから出なくてはなりませんが……」
「んなもん、日下さんも説得すりゃ良いだけの話だ! あの人だって、先輩を大事に思っているはずだ! きっと納得してくれる!」
「……そうですね。どうやらそのようです」
そう言いながら、青葉は椅子から立ち上がった。
「あなたとの協力は取りつけました。私が出来る事はここまでです」
「何かサポートとかしてくれないのかよ?」
「私の使える能力は全て朝倉ハルに渡しています。彼女がどうにも出来ない事は、私にもどうする事も出来ません」
つまり、これ以上の援軍はないという事だろう。
後は大福とハルでどうにかするしかない。
「では、私はこれでお
「……見とけよ。俺がより良い未来ってのを掴み取ってやる」
「期待しています」
そう言って笑うと、青葉は部屋から消えた。
まるで最初からいなかったかのように、影も形もなくなるのだから不思議な話ではあるのだが、それもまた今更、という感じもした。
「よし……それじゃあ、早速行動開始を……」
大福が椅子から立ち上がったとほぼ同時。
プシュ、と。
また音がして部屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは――
「見つけた!」
「ハル先輩!?」
見間違うはずもない。朝倉ハルその人であった。
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