3-2 どこを回ろう?
文化祭当日ともなれば、中央広場からすでにお祭り仕様である。
野外ステージも完璧に出来上がっており、今はその周りに生徒たちが集まっている。
「あの野外ステージで開会式を行うのよ。結構、すっぽかす子も多いんだけど」
「まぁ教室で出席も取らないなら、そうなるよなぁ」
大福たちも野外ステージに集まる生徒と同様、人ごみに紛れるようにして開会式を待つ。
ちなみに、出席の是非は校門のゲートをくぐる際に端末の認証によって行われており、今日も登校日として数えられるので、皆勤賞を狙っている人は気を付けよう。
そんなこんなで時間となり、ステージの上に生徒会長が立った。
何度かマイクチェックを行った後、
『えー、本日はお日柄も良く』
なんてお決まりの
『日曜と月曜は第三、火曜と水曜は第二奈園学園が文化祭を
「「「おおおおおおおお!!」」」
コールレスポンスというには荒々しすぎる応酬が行われた。
まるでこれから敵陣に攻め入るかのような気合の入りようの生徒会長と、周りの生徒たち。
大福が気が付くと、ハルまでシュプレヒコールでも行うかのようにレスポンスを返していた。
「せ、先輩?」
「郷に入っては郷に従え、祭りに参加したからには祭りのルールに
そんな急にテンションを上げろと言われても、とは思ったが、この雰囲気に水を差したなら周りから何を言われるか分かったものではない。
大福もなんとなくカラ元気を振り回しつつ、腕を持ち上げ、声を張り上げた。
『第一奈園学園、文化祭の開幕じゃあぁ!!』
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」
地面を震わせるかのごとき雄たけびと共に、文化祭の開催が宣言された。
****
開会式後、二人は連れ立って高等部校舎の方へと向かう。
「ね、どこから回ろうか?」
ウキウキが隠しきれていないハルは、昇降口を前にして大福に振り返る。
そんな様子を見ながら、大福はプログラムリストのアプリを立ち上げた。
「まー、常道で行くならアトラクションモノからですかね。お昼前に色々行っておきましょう」
「アトラクションか……悪くないかも。何があるの?」
「えーと、科学部の実験体験、美術部の絵画教室に書道部の習字体験、あ、一年のやってるお化け屋敷なんてもんもありますね!」
「一年か……そう言えば、大福くんのクラスは写真展示なんでしょ? キミはどんな写真を撮ったの?」
「それは午後からのお楽しみにしておきましょ」
くふふ、と含み笑いをしつつ、大福は校舎の中へと入っていく。
広い校舎ではあるが、今日は中等部や初等部の生徒も出入りしているので、結構ごった返しているように見える。
「人が多いスね……」
「まぁね。奈園学園では中等部以下の子たちは部活に入ってないと、出し物を出す側に回れないから」
「え、そうなんスか?」
「第一学園も敷地はすごく広いからね。あんまりバラけちゃうと回るのも大変になっちゃうし、ネタ被りも大量に発生しちゃうだろうしね。高等部だけでもすでにネタ被りはあるし……」
一学年につき十クラスほどあれば、高等部だけでも三十クラス。
その全てで出し物の内容を被らせないようにするのは、流石に大変だろう。
大福のクラスで行う写真展示も、写真部と被っている上に、他クラスでも同じような出し物をしているのがプログラムで確認できた。
「代わりに、中等部では部活動の出し物、初等部では五年生と六年生が合同で劇を披露するのよ。講堂の方のプログラムに書いてるでしょ?」
確認してみると、確かに講堂の方で初等部の劇や、中等部の吹奏楽部、演劇部の出し物がある。
「そういや、青葉が中等部の演劇部なんですよ。先輩、知ってました?」
「え、知ってたけど……逆に、大福くん、知らなかったの?」
「アイツ、教えてくれなかったんスよ! パーソナルスペースに入れたくない、とか言って! 酷くないスか!?」
「あー……わかる」
「わかる!?」
思いがけなかったハルからの裏切りに、大福は小さなショックを受けた。
「なにがわかるんスか!? ま、まさか先輩も俺をパーソナルスペースに入れまいと、隠し事をしているんじゃないでしょうね!?」
「そう言う事じゃなくてさ。年頃の娘さんなら、大福くんはアクが強いかな、って」
「全然サッパリめですけど!? 何度食べても胸やけしませんけど!?」
「そう言うところよ」
「うっ……」
もう何も言い返せなかった。
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