2-15 条件

「これが今回、奈園内にあったウノ・ミスティカのアジトから入手出来た映像だ」


 パチンパチンと音がして、部屋の電灯が灯る。


 プロジェクターの幕が引き上げられるのを見ながら、立っていた男性は、椅子の上で項垂うなだれる少年の肩を叩いた。


「その後、秘匿會によって保護された木之瀬美樹は回復後、精神病棟に入院させられる」

「……そりゃ、そうでしょうね」


 奈園の秘匿會本部にて、映像を見ていた大福が俯きながら答える。

 彼の前にいたのは日下だ。


「あんなことされたなら、精神がいかれててもおかしくない。逆にそうでないとおかしい」

「そうだね。私もそう思う」


 今の映像は先日、青葉が得た情報を元に、秘匿會がウノ・ミスティカのアジトを強襲し、奪取してきたモノである。


 他にも色々と有益な情報が得られたのだが、大福の母親である美樹の情報は、この映像が最大のモノであった。


 それを見終わった大福は、青い顔を持ち上げる。


「……それで、そのあとはどうなったんです?」


 大福の言葉を聞いて、日下は少し苦笑した。


「ちょっと休憩しなくても良いのかい? 全く面識はないだろうけど、実の母親の顛末てんまつだよ?」

「ノンフィクションのスナッフムービー見せられて、具合を悪くしないような変な趣味は持ち合わせてませんし、実際超気分悪いですよ」


 今まで流されていた一年分の映像。


 早回しではあったものの、だいたい何が起こっていたのかはわかった。

 それをちゃんと全て見た上で、大福はその先の話を要求する。


「気分悪いからこそ、こんな案件は早く片付けるに限る」

「……なるほど」


 大福の考えを汲み、日下も話を続けることにした。


「精神病棟に収容されてすぐ、木之瀬美樹が懐妊していることを確認。本人もそれを自覚しているようで、当時の職員から『子供の名前を大福にする』という発言も確認している」

「大福、ね」


 先ほどの映像で最後に見えた白い球体。

 あれはサイズ感からしても大福の様に見えた。


「まさか、父親の形状から自分の名前がつけられてるとは思いませんでしたね」

「ジョークを言えるなら、まだ平気そうだね」


 相当参っているはずの大福だが、彼の気丈さを無駄にしないよう、日下も話を続ける。


十月十日とつきとおか後に出産に至るのだが、ここでも彼女の意志によって自然出産が選択される。担当医もかなり心配したようだが、結果を見れば出産は無事成功。術後も母子ともに健康で、君は今もこうして元気に過ごしている」

「……でも母親は自殺したんでしょ」

「……ああ」


 大福の出産後、美樹は再び精神病棟に戻されたのだが、その病室内で自殺していた。


 壁や床に至るまで、危ないモノは極力排除された病室内で、美樹は自分の膝に頭を打ち付け、頭蓋骨をカチ割っていたのである。


 それまでそんな素振りなどなく、落ち着いていると見られていた美樹による、突然の凶行。


 誰も予期することが出来ず、美樹は病室内で一人、ひっそりと死んでいたのだった。


「これで、秘匿會が有する木之瀬美樹に関する情報は全てだ」


 そう言った後、日下は大福の前に立つ。


 彼の顔にはすでに柔和な表情などなく、冷徹に処断を下す秘匿會支部長の顔があった。


「これらの情報を鑑みて、我々秘匿會は木之瀬大福を――」

「待ってください」


 日下の言葉を遮り、大福が手を挙げた。


「どうした、大福くん?」

「秘匿會がどんな沙汰さたを下そうと、俺はそれに必ず従います。でも、一つだけ条件をつけさせてください」

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