2-14 痛ましい事件
「スコアの確認!」
「はい! アルファチーム十八、ベータチーム十二。事前情報にあった人数と誤差マイナス二です」
「二人逃してる……? 逃げたか?」
「逃げられるような隙は与えませんでしたが……」
ビルの内部にいるウノ・ミスティカ構成員は三十二人であるはずだった。
正面から突入したチームと裏口から突入したチームが撃ち殺した人数を合算しても三十人。
二人ほど見落としている計算になる。
美樹は装備していたヘッドセットに手を伸ばす。
「バックアップ、こちらアルファチームリーダー。殲滅対象を二人、見落としている可能性がある。外へ出た形跡は?」
『こちらバックアップ。誰も外へは出ていません。結界にも反応なし』
外へ逃げた様子はない。
このビルに地下へ通じる階段などはなく、外でバックアップしている部隊の目を盗む事は出来ないはず。
「ベータチーム、こちらアルファチームリーダー。スコアが二つ足らない。再度確認を」
『ベータチーム了解』
ヘッドセットに返ってくる声を聞き、しばらく待つ。
『こちらベータチームリーダー、スコアに間違いはありません』
「アルファチームリーダー、了解。指示があるまで待て」
確認結果を受け、美樹は後ろに控えていた部隊員を見る。
待っている間にAチーム内での確認も終わっており、こちらも数え間違いなどはない。
(事前に調べたビルの図面に、隠れられそうな場所はなかった。見落としというのも考えづらい……どういうことだ……?)
考えられる可能性としては、美樹たちが知らない隠れ場所がある事、敵の能力者が結界を破って逃走、または能力を使用して潜伏している事、事前にビルを監視していた人間が出入りした人間の数を数え間違えた事……などだろうか。
相手が能力者であるなら幾らでも可能性は考えられるし、もしヒューマンエラーであるならそれは完全に防ぐことは出来ない。
であれば、二人の誤差は許容範囲内とする事も出来たのだが、どうにも気になる。
と、その時、
「リーダー!」
部隊員の一人が声を上げる。
そちらに目を向けると、壁に何やら異常を発見した様子。
「どうした?」
「これ、何かの跡です」
壁の床に近い部分。
白い壁紙にラクガキのようなインクが付着しているのを確認できた。
「文字でもないし、絵ってわけでもなさそうだな……」
「単なるラクガキでしょうか?」
「わからん……が、ここで何かの能力が使われた可能性はあるな」
腐ってもここはウノ・ミスティカのアジトである。
何が起きても不思議ではない事を念頭に、あらゆる可能性を考える必要がある。
……のだが、もし本当に何かしらの能力が使われて逃走されたのであれば、非能力者である美樹たちに打てる手段はなかった。
「これ以上はあたしらじゃどうしようもないか。……全員撤収。後は後詰めに任せよう」
「了解」
おそらく、残り二人は能力によって脱出したのだろう、と結論付け、美樹たちは撤収しようとする。
何せ、非能力者で構成された部隊ではどうしようもない領域である。
あとは明朝にでも捜査用の能力を持った人間に調べてもらうしかないだろう。
自分たちの手でウノ・ミスティカを全滅させたかったが、仕方がない。
少し残念な気持ちを抱えつつ、実働部隊は引き上げることになった。
のだが。
「おっ……」
部屋から出ようとする中、最後尾を歩いていた部隊員に、美樹が振り返った瞬間であった。
何もなかったはずの壁が
それを見た時、美樹は無意識のうちに身体が動いていた。
殿の隊員を押しのけ、その場から退かせたのである。
「り、リーダー!」
「逃げ――」
美樹の命令を最後まで聞くことも出来なかった。
美樹は現れた蔓のような何かに絡め取られ、輝く壁の中へと引っ張りこまれてしまった。
隊員が驚いて壁に体当たりをするが、最早壁はウンともスンとも言わない。
何の変哲もない壁に向かってスレッジハンマーが振りかぶられたが、奥には何もなく、美樹は忽然と姿を消してしまったのだった。
****
ザリザリと映像が乱れ、しばらくすると波打っていた画面が正常になる。
定点カメラのようで、天井に取りつけられた目線は、部屋を
映っていたのは一人の女性と、幾人かの人影。
女性以外の人間はなんとも怪しげなローブを纏い、人相どころか体格すらよくわからないようになっている。
逆に女性の方は全く何も身に着けておらず、頑丈そうな椅子に拘束されていた。
映像に音声は乗っておらず、ただただその光景が映し出されるのみ。
何の脈絡もなく、女性の指が折られる。
ローブを纏った人影が女性に近付くと、手の指を丁寧に一本ずつ。
両手が終われば両足。
全ての指が折れると、次は丁寧に爪をはいでいく。
荒い映像でもわかるほど、女性は苦しんでいる様子であったが、それでもローブの人影たちは全く動揺した様子を見せず、淡々とそれを続ける。
その淡々とした拷問の映像が、日付ごとに記録されている。
日に日にエスカレートしていく拷問は、何を目的にしているのかもわからず、ただただ女性をひたすらに痛めつけていく。
普通なら痛みと出血で死亡してもおかしくない怪我を負ったとしても、能力者が現れて生死のギリギリで繋ぎとめているらしく、女性は拷問の痛みで気絶し、また痛みで覚醒するというのを繰り返していた。
その映像はまるっと一年分続いていた。
そして一年後のある日。
とある一室にローブの人間が数十人集まり、お祈りをするように
その中心には見るも無残な姿となった女性がいた。
すでに人間としてのシルエットを保っておらず、生きているのか死んでいるのかも、映像からでは窺うことが出来ない。
中心に置かれた女性の下には謎の文様が刻まれている。
まるでサバトの魔法陣のように見えるそれは、事実、召喚陣と呼ばれるものであった。
女性はこれから生贄に捧げられ、とある存在をこの場に召喚する材料にされる。
ローブの人影の内の一人、祈祷師らしき人物が何やら本を掲げ、大きく叫んでいるように見えた。
その瞬間、画面が見えなくなるほどのフラッシュが起き、ホワイトアウトが収まると、女性の真上に何やら拳大の白い球状のモノが出現していた。
その出現を確認したローブの人影たちは、なにやらどよめいているようであった。
それは召喚成功を喜んでいるのか、もしくは予想外の展開に動揺しているのか。
相変わらず音声の乗っていない映像からでは推察しにくい。
ただ、その後に起こった出来事を
白い球状の何かが膨れ上がったように見えた。
何か線状の物体が何度か閃いたかと思うと、ローブの人間の幾人かが血飛沫を上げる。
腕が、脚が千切れ飛び、胴体が裂け、頭が弾ける。
その血生臭い現象は何度か繰り返され、数十秒の内に、部屋内に集まったローブの人間が全て血の海に伏した。
全く脈絡を感じさせない凄惨な出来事が終わると、白い球状の何かは女性に近付き、触手のような何かを伸ばした。
触手が女性に触れると、瞬く間に女性は完璧な状態を取り戻す。
失っていた四肢が復活し、剥がれていた皮膚も元通りになる。
死にかけていた女性は、なんとローブの集団に捕らえられた直後よりも健康体となっていたのだった。
白い球状の何かはその後、女性の中に吸い込まれるようにして消えて行った。
直後、部屋のドアが開かれ、秘匿會の装備を着こんだ一団が部屋にやってくる。
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