2-6 カチコミヨーソロー
「……蓮野だ」
「蓮野かなで!?」
大福の頭に思い浮かんだ少女。それは蓮野かなでであった。
確か、夏に水着を買いに行った際に、蓮野がポロっと『ミスト能力』について口走っていた。
彼女自身もミスト能力というのが正式名称だと思っていたようで、コードについての
「まさか……蓮野がウノ・ミスティカだっていうのか!?」
「わからないけど、その可能性は高いわ」
大福の友人であることをを
一般人は知らない『異能力』の事を知っていて、ミスト能力という単語を知っており、コードという単語を知らない。
であればまず間違いなくウノ・ミスティカだと思って良いだろう。
だとすれば秘匿會内にスパイが入り込んでいることになる。
気付いた青葉が慌てて端末を取り出した。
「すぐに本部に連絡を……いや、待って」
「どうした、青葉」
「蓮野かなでがウノ・ミスティカである確たる証拠が欲しい」
端末を操作しつつ、青葉がそんなことを口走る。
「おい青葉、なんか良からぬことを考えてるんじゃないだろうな?」
「良からぬことなんて何もないわ。これは秘匿會の一大事であり、それを解決出来るのはあたしたちだけなのよ」
「待て待て。俺たちだけで行動するより、応援を呼んだ方が利口だろ」
「大人数が動けば、相手に察知される可能性も出てくる! 相手が今も潜伏に成功していると思わせて、油断しているからこそ、クリティカルな証拠を得られるチャンスなのよ!」
確かに、秘匿會に応援を頼めばある程度の人員が動員され、敵もその動きを掴みやすくはなるだろう。
何より準備期間を設けることによって後手に回る可能性もある。
動けるならば早い方がいい。
「どうするつもりなんだ?」
「蓮野かなでの家に侵入するわ」
堂々とした不法侵入宣言であった。
確認であるが、不法侵入とは普通、罪に問われる事であり、三年以下の
「ば、ばかやろう! お兄さん、そんなこと許しませんよ!」
「じゃあどうするのよ? このまま指を
「うっ、それは……」
ウノ・ミスティカにとって一番の脅威はミスティックに対抗しうる能力を持つと言われる地球の娘、ハルである。
彼女を排除することが出来れば、ミスティックに大きく分が傾く。
彼女の能力は万能であるとは言え、不意の一撃であれば殺すことが出来るかもしれない。
ウノ・ミスティカはそれを狙って一度、秘匿會の本部に強襲してきたこともあるのだ。
全くありえない、とバッサリ斬り捨てられる話ではない。
「どうするの、大福? 罪に怯えて朝倉先輩を見殺しにするの?」
「ぐっ……」
「秘匿會に益のある事だもの。成功すれば
「で、でも、蓮野がウノ・ミスティカではない可能性もあるだろ?」
「それを確かめるためにも、被疑者の家に踏み込んで、事実を確かめる必要がある!」
全く語気の衰えない青葉。
それに推し負ける形になったが、大福は
「……わかった。行こう」
青葉の提案を受け入れ、蓮野の家に向かうことになったのだった。
****
秘匿會員の住所はある程度データとしてまとめられている。
特に新入りで木っ端の職員であれば、かなりセキュリティの甘いところでデータが管理され、仮エージェントである青葉程度の職員でも簡単に閲覧することが出来た。
「能力者のはずなのに、こんなに簡単に住所の照合が出来るなんて……やっぱり何かおかしい」
蓮野は自称、能力者である。
大福の特異体質の正体を突き止めるために本土から派遣された、という話であったが、能力者は秘匿會でも貴重な人材である。
そんな人間の情報をセキュリティの甘いところで管理しているはずもない。
この点も蓮野に対する疑念を深める要因となった。
そして、
「ここが蓮野かなでが住んでるマンション」
奈園南部にある、とある集合住宅。
ご
「じゃあ、早速入るわよ」
「カギとかあるのか?」
「秘匿會にはユーティリティキーアプリがあるのよ」
そう言えば、大福も先日、ハルの部屋にお邪魔する際に日下から渡されたモノがあった。
だがあれもアプリのレベルによって開錠出来るモノが決まっている。
セキュリティ性の高いカギはユーティリティキーアプリを所持していても、レベルが低ければ開けられないこともあるし、そもそも物理的なカギであればアプリは全くの無力だ。
だがここは奈園。秘匿會の意図が大いに盛り込まれている島である。
秘匿會が自由に出入り出来るよう、カギはだいたい電子キーとなっている。
このマンションのエントランスも、当然。
「さぁ、行くわよ」
ドヤ顔でエントランスを突破する青葉。
どうやら全く物怖じしていないらしい。
「せめて蓮野の部屋はチェーンロックされててくれ……」
「なんか言った?」
「別に」
これ以上、妹分が罪を重ねられないよう、物理的な防犯対策を期待するしかなかった。
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