2-5 思い出される失言
「神託って言うのは読んで字のごとく、神のお告げを受け取ることが出来る能力の事よ。事前に未来予知のような事が出来たりとか、地球の裏側で起こっている事件の事をすぐに知れたりとか……」
「なるほど、全知全能の神様が色々教えてくれるってことか」
「言うほど全知全能ってわけでもないらしいけどね。地球の外にいるミスティックの事とかはよくわかってないみたいだし」
青葉の授かる神託というのは、常に地球圏内の事だ。
外宇宙からやって来ているらしいミスティックのことまでは感知していないのか、神託は何も教えてくれないらしい。
「現在、神託の能力を持っていると言われているのは八人。秘匿會にあたしを含めて四人所属していて、所在がつかめているけど秘匿會には所属していない能力者が三人。あと一人はちょっと詳細不明らしいわ」
「数万人いると言われている能力者の中で、たった八人ってことになると、そりゃレア能力ってことになるのか。その秘匿會に所属していない能力者ってのは、ウノ・ミスティカに所属してるってことなのか?」
「いいえ。神託をくれる神様もウノ・ミスティカには良い思いを抱いていないみたいでね。ウノ・ミスティカには神託を授けないようにしているらしいの。過去に神託の能力を持った人間がウノ・ミスティカに所属したこともあったけど、何も教えてくれなかったってさ」
「じゃあ、秘匿會に所属してない奴らってのは?」
「望まぬ特殊能力を疎んでる人とか、組織に所属することを嫌がってる人とかって聞いたわ。詳しい事は知らないけど、人間だし、考え方も色々よね」
ハルの話を聞いていれば、確かに能力を疎む人間もいるだろう。
また、能力を持っているからと言って強制的に秘匿會に所属させるというのも反発が起きるのも納得が出来る。
秘匿會としては能力やミスティックの事が明るみに出なければ良いので、その辺を厳重に注意したうえで泳がせているのだろう。
彼らが自由を選んだ結果、ウノ・ミスティカに襲われても、それは自業自得だろうし。
「じゃあ、青葉は常に神様の言葉が聞こえてるってことか? 今も?」
「そう言うわけじゃないみたいね。神様の言葉はたまに、ポロっと、何の
「最近来たメッセージと言えば?」
「あたしのところに来たのは、五年くらい前の
折布追島とは、日本海に浮く孤島で、ミスティックの事件に巻き込まれて地図から消えてしまった島である。
秘匿會はその事件も必死に秘匿し、現在では折布追島という島は最初から存在しなかったことにされている。
そうするためにあらゆるコストを惜しまなかっただろう。人員、金、そして能力者の能力ですらも。
もしかしたらハルの催眠能力も使ったかもしれない。
「俺も聞いた話でしかないけど、その事件に青葉も関わってたのか」
「関わってた、というか、他の神託能力者と同じく、ミスティックの活動に関わるお告げとして聞いて、秘匿會に教えただけ。……結局、ミスティックにしてやられたわけだけど」
「そういや、その時のミスティックってどうなったんだ?」
「宇宙に戻ったって聞いたけど……どうしてそんな結末を迎えたのかは、秘匿會もよくわかってないみたい」
正体不明の宇宙人の思考を読むのは、まぁ不可能に近いレベルの難易度だろう。
彼らが何を考えて行動しているのか、理解できるのであればもしかしたらそれは狂人のなせる業なのかもしれない。
「でも、直近で五年前にしか来てないってことは、メッセージはあんまり来ないんだな。こっちから催促とかは出来ねーの?」
「能力はあくまで『神託』らしくて、こちらから呼びかける事とかは出来ないみたい」
「へぇ……面倒なんだな、ミスト能力ってのは」
「馬鹿言わないで、あんなのと……待って?」
なんて事のない会話の中で、青葉は見逃し切れない違和感を見つけた。
買い物の手を止め、信じられないモノを見るような目で大福を見た。
「今、アンタなんて言った?」
「面倒なんだな、って」
「そのあと!」
「えっと『ミスト能力ってのは』?」
聞き間違いではなかったことを確認し、青葉は大福の胸倉をつかむ。
「誰にその言葉を聞いたの!?」
「え? なんかまずいこと言ったか?」
困惑する大福。
そりゃそうだ。何気ない日常会話の中で、なんてことのない言葉だったはずだ。
それが青葉の地雷を踏むとは全く思うまい。
だが、それは青葉個人に留まるレベルではなく、とんでもない巨大地雷だったことにすぐ気づかされる。
「あたしたち秘匿會は能力の正式名称を『コード』と定めたわ。これは『ミスト能力』ではミスティックに由来する能力という印象が強すぎるためよ」
秘匿會に所属している能力者も、元々はミスティックからの弱い影響を受けた結果、本来持ちえない異能力に目覚めることになった、という話は春ごろに聞いていた。
だがミスティックとは秘匿會と敵対する存在である。
そのミスティックに近い音を有する『ミスト能力』というのは、あまり好ましくないという理由で、秘匿會に所属する人間の持つ能力は『コード』と呼ぶようにしよう、と定めたのである。
これは
秘匿會員ではないのに、能力の事を『ミスト能力』と呼ぶ人間は極めて怪しい。
そう、今の大福のように。
青葉も大福の人となりを知らなければ、大福をウノ・ミスティカとして断定し、しょっ引くこともあったかもしれない。
だが、当然の事だが大福が『ミスト能力』という呼称を知る可能性は少ない。
何故ならば秘匿會にとって大福とは、単なる一般人協力者。
異能力の事を必要以上に教えることは、基本的にはあまりない。
そして大福がウノ・ミスティカではない事は、青葉もよく知っている。
であれば、誰が大福にその言葉を教えたのか?
「アンタにその言葉を口走ったのは、誰だった!?」
「えっと……」
大福も急に言われて、慌てて記憶を手繰る。
どこで言われただろう? 誰に言われただろう?
思い出したのは、一人の少女であった。
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