2-4 ホームセンター

 そんなこんなをしているうちに、二人はホームセンターへとたどり着く。


 奈園のホームセンターも、本土のホームセンターとあまり変わったところはなく、家庭菜園用品や植物の苗や種、釘からトンカチ、ベニヤ板、ポータブルな暖房器具や照明、ペットの餌など様々なモノが売っている。


 興味のない人間が来店しても目的のモノだけを買って去るだけの場所だが、興味のある人間が訪れれば一日中でもいられる場所である。


 また、奈園にあるほとんどの店と変わらず、店舗の敷地もそれほど広くなく、商品を保管しておくための倉庫も大きなものは用意できないために、店頭に並んでいる商品は小さいモノがほとんどである。


 大きな商品は本土側に倉庫があり、店舗では注文だけ受け、商品は後日取り寄せるなどの措置をとっているため、その手の商品が入用であれば余裕をもって注文するのが賢いだろう。


「んで、俺たちは何を買いに来たんだっけ?」

「アンタはそこで待ってなさいよ。荷物持ちとしてしか期待してないから」


「なにをぅ。俺だってお使いくらいできるぞ」

「じゃあ、必要な釘の長さ、覚えてるの?」


 教室を出る前、確か口頭で告げられていた。


 青葉はそれを端末にメモしていたが、大福は門外漢であるため全く聞き流していたのだ。


「ちなみに、長さが違うと全然用途も違うから。それに無駄遣いをするような部費もないからね。間違ったらあたしだけじゃなく、演劇部全員に迷惑がかかると思って」

「うっ……」


 そこまで念押しされると、少したじろいでしまう。


 影響が青葉だけであれば大福も気楽であったろうが、見ず知らずの中学生にまで波及はきゅうしてしまうとなると全く話が違ってくる。


 いや、青葉だけに影響があったとしても、間違った買い物をするつもりはないのだが。


「……荷物持ちの任、つつしんで拝命はいめいいたします……」

「わかればそれで良いの」

「でも、買い物カゴを持つぐらいなら出来るぞ」


 なにをどの程度購入する予定なのかはわからないが、確か購入予定には絵具も含まれていたはずである。


 大道具の絵具に使うとなれば、ある程度の量が必要になるだろう。それを買い物中、ずっと手に持っているのは大変なはずだ。


「……まぁ、じゃあついてくれば?」


 そう言って青葉は、店の入り口で手に取ったカゴを大福に押し付け、奥へと歩いて行った。

 その背中からは強い拒絶もなさそうだったので、大福も軽い足取りで彼女の後を追う。


「んで、何センチの釘を何本買うんだ?」

「アンタに教えても意味ないから教えない」




 端末を確認しながら、ポイポイと商品をカゴに入れていく青葉。


 釘はともかく、絵具の缶が入れられた時にはズシッと重量を感じたものだが、それでも思ったより軽い買い物で済みそうであった。

 そんなカゴを片手に、大福は商品棚を眺めている青葉に声をかける。


「そういやさ。青葉って秘匿會の仕事はあんまりしてないのか?」

「……なによ、やぶから棒に」


 確かに、自分でも急な話題振りだとは思ったが、大福は話を続ける。


「いや、真澄さんは今日も家にいないじゃん? 忙しそうに思える反面、青葉は青春に汗水流してるワケじゃんか。……やっぱり秘匿會も中学生を働かせるのには負い目を感じてるのかな、とか」


 そもそも、普通に考えて中学生を職員として働かせるのは通常、法律で認められていない。


 限られた職種では特別にお目こぼしがされているらしいが、秘匿會の仕事がそうであるとはちょっと思えなかった。


 逆に、秘匿會の活動が法律に縛られているとも考えにくかったが。


「青葉は確か、仮エージェントだったっけ? そんな微妙な肩書きだし、秘匿會も持て余しているのかなとか痛い!」


 喋っている最中に、青葉が棚から取ってきた釘を、大福の手にチクッと刺していた。

 血が出るほどではないが、痛みを感じる程度には押し込まれている。


「なにすんだよ!」

「アンタにはデリカシーってもんが本当にないのかしらね!?」


「……青葉も気にしてるってことか」

「そりゃそうでしょ。……あたしだって出来る事ならエージェントとして活動したいし。でも、あたしが中学生だからって、秘匿會の奴らはみんな、あたしを見くびってるの!」


 どうやら自分にとてつもない自信があるらしい青葉は、評価してくれない世間に苛立ちながら、その場で地団太じだんだを踏んだ。


 そういう仕草は、まだまだ子供なのだなと思わされる。


「見くびってるとは言うがね、青葉。所詮、キミは中学生。いかほどに仕事が出来るものだか、俺ですら疑ってしまうぞ」

「ふん、大福は私の事をよく知らないからそんなことが言えるのよ。あたしだって立派な能力者なんですからね」

「能力者……!?」


 初耳情報であった。


 今の文脈から察するに、『能力者』とは秘匿會が秘匿しておきたい超能力を持った人間の事であろう。


 青葉がその一人であるというのは、今まで聞いたことがない。


「何でそう言う重要な情報、俺には教えてくれないの!?」

「だから! アンタにはあたしのパーソナルスペースに入ってこないでほしいの!」

「いや、パーソナルスペースの規模の話じゃなくない!?」


 ツッコミどころが違うような気はしつつ、大福も自分が動転しているのだろうな、と自覚する。


 大福の中で三件目となる超能力者の例である。

 驚くなというのが無理な話だ。


「なるほど、その能力のお蔭で秘匿會に無理言って仮エージェントにしてもらったんだな?」

「何せ、あたしの能力は史上でも希少なモノだからね。秘匿會としてはなんとしてでも囲っておきたかったんでしょうね」


「んで、その能力って?」

「ふふん、聞いて驚きなさい! なんと『神託しんたく』の能力よ!」


「お、おお……」


 凄いのかどうか、いまいちよくわからない。

 だが、ここは褒めておいた方が良いのだろう。


「すごい、流石は青葉。俺の自慢の妹分だ」

「アンタの妹分になった覚えはないって言ってるでしょ! ……でもまぁ、あたしが凄いのは事実!」


 どうやら気を良くしている様子の青葉。

 これならば突っ込んだ質問をしても怒られないだろうか。


「それで『神託』ってのはどういう能力なんだ?」

「わからないのに適当に褒めないでよッ!」


 結局、青葉の鋭いローキックが大福の脛に刺さった。

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