1-3 デジャビュ

 まず、常道じょうどうで行くのであれば、ということでやって来たのはハルの教室、二年八組。


 学園の中でも特に成績の高い生徒たちが通う特進とくしんクラスというやつらしいのだが、はたから見れば余り変わらない。


 あからさまにガリ勉のような風貌ふうぼうの人間がいるわけでもなし、そこそこにチャラい人間も普通に混じっている。


 というのも、この特進クラスというのは単に勉強が出来れば入れるわけではない。


 ここに掲げられている看板は文武両道。

 勉学も運動も人並み以上にこなせてこそ、ここに入ることが許される。


 いうなれば高校生のハイエンドたちが入ってくる場所なのである。


 そんな場所に通り一遍のガリ勉が入れるわけもなく、チャラ男に見えてもそのスペックはとんでもない事になっているのだ。


「くそぅ、そう考えるとちょっと気後れして来たぜ……」


 変なプレッシャーに負けそうになりつつ、大福は二年八組のドアの前に立つ。

 すると、大福に気付いた一人の生徒がスクっと立ち上がった。


「警戒態勢ィ!!」

「えぇ!?」


 まるで警笛けいてきでも鳴らすかのような、凄く通りの良い声が響き渡る。

 次の瞬間から、どこからともなく二年生の校章バッヂをつけた連中が現れ、大福の視界を塞ぐように立ちはだかった。


「な、なんだ、なんかちょっと既視感のある光景だな……」

「貴様、何用で八組に近付いた!? 事と次第によっては、この場で打ち首に処す!」

「凄く物騒なこと言ってるし……」


 実は二年生に囲まれるという状況は初めてではない大福。


 その時の経験が活きたか、それほどたじろぐことなく、大福は質問に応じる。


「二年八組の出し物が気になって、ここまで来ました!」

「やはりな……しかし、そんなやからはこれまで何十人も見てきた! そしてことごとく追い返してきた!」


「追い返した!? それは何故!?」

「貴様もどうせ、朝倉さんが目当てなのだろう!」


 なんだか嫌な予感がしてきた。


 もしかして、これまでやって来たという何十人というのも、ハルを目当てにここまでやって来たという事か。


「つまり、ハル先輩が参加するタイプの出し物という事か……!?」

「こ、コイツ……まさか、八組の出し物を知らずにここまで来たというのか……!?」


 動揺する二年生。どうやら大福に情報を与えてしまった事を悔いているらしい。

 それに続いて、隣に立っていた二年生が端末を持ち出す。


「待てよ、コイツ……例の一年生だ!」

「なるほど、それで……」


 どうやら大福は有名人らしい。


 それもそのはず、入学してすぐにハルの周りをウロチョロするようになった目障りなコバエと言えば大福の事なのだ。


 これまでずっと学園のアイドルとしてハルをあがめてきた連中にとっては、目障りなことこの上ないわけである。


「俺の正体が割れたなら、そこを通してくれないだろうか。俺は単に八組の出し物が何なのか気になっているだけだ」

「ククク、その手には乗らんぞ。そう言って貴様は我々から全てを奪っていくつもりなのだろう!? 皆のモノ!」


 代表格らしい男が片手を上げると、大福の両腕ががっしりと捕まえられる。


「な、何をする!」

「強制退去だ。貴様に与える情報は、ゴマ粒程度も存在していないッ!」

「お、横暴だ! 俺には知る権利が……ま、待てー!!」


 大福がギャーギャーと喚くのも空しく、そのまま階段の踊り場まで連れて行かれてしまった。


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