余話2 よし
と、その時、大福の端末にメッセージが届く。
「あ、やばい」
ディスプレイを確認すると、そこにはハルからのメッセージが届いたことが示されていた。
それ自体は喜ぶべきことだが、内容が不穏である。
『すぐに指定された場所に来るように、以上』
端的に表示された文字列は、ただただ要求のみを述べるもので、なぜだか冷ややかさを感じさせた。
また、すぐに画像が添付されたメッセージを受信し、その画像を確認すると遠くから大福たち三人の様子が撮影された写真であった。
「お、俺たちは見られている!」
急に青い顔をして震え始める大福を見て、五百蔵と蓮野は怪訝そうな顔を浮かべる。
「どうした、急に」
「妙なものでも食べましたか?」
「いや、そうじゃなくて……」
状況を説明したいのはやまやまだが、三人が集まっている状況をハルに見られているという事実を前に、一刻の猶予もない気がする。
可及的速やかに行動に移らなければ、最悪命に係わる。
「あの、五百蔵くん、蓮野……俺、行かなきゃ」
「なんだその
「五百蔵さん、やめましょう。断頭台へ向かう囚人を引き留めては覚悟が揺らぎます」
「え? マジで大福、何かしでかしたの?」
状況の読めない五百蔵だったが、蓮野に引きずられてどこかへ消えて行った。
引き留めるものも居なくなったので、大福は別方向へと歩き出す。
本当なら早足で向かいたいところだが、何故だか足取りは重かった。
****
神社の前をまっすぐに抜ける街道が、電飾によってキラキラと輝く。
敷地が狭い関係上、どこにも出店が開かれている様子はないが、その代わりに海までの街路が煌びやかに装飾され、また歩行者天国になって、周りの店舗は道までハミ出て営業することをある程度許される。
今の様子はさながらお祭りの
道を往く人々は各々がお祭りのためにおしゃれをしている。
こぎれいな洋服を着ていたり、浴衣や
そんな中で、ひときわ目を引く存在が一つ。
真紅の生地で、裾には大きな華が散りばめられ、コントラストの見栄えする浴衣。
手に持っている巾着も鮮やかな刺繍が施されており、ガラス飾りが電飾を照り返してキラキラしている。
結い上げた黒髪も涼しげで、襟元から見えるうなじも艶やかだった。
ただ一つ、極限まで不機嫌を煮詰めたような表情さえなければ、百点の浴衣美人だっただろう。
「せ、先輩?」
「……あ?」
大福が話しかけると、不機嫌さを全く包み隠すことなく、表情と態度、そして声音に乗せてハルが振り返った。
「君さぁ……なに人と待ち合わせてる最中に、他の女の浴衣姿に見とれてるわけ?」
「べ、別に見とれてなんかなかったでしょ!」
やはり先ほど、五百蔵と蓮野と一緒にいるところをバッチリ確認されていたらしい。
ハル的にはどうやらそれが気に食わなかったようで、眉間にしわを寄せ、小刻みに舌が鳴っている。
「こないだの水着の時もさぁ、あの女と一緒にいたっていうしぃ? ぶっちゃけ私なんかよりも同学年の人と一緒にいた方が楽しいんじゃないですかぁ?」
「うわ、ダルがらみ……」
いつもはハルにダルがらみを仕掛ける側の大福であったが、まさか彼女の方からカウンターを喰らわせてくるとは思わなかった。
でもそれも、なんとなく心がフワフワする。
何せハルが不機嫌だというのは
「先輩、嫉妬してます?」
「してますぅ」
蓮野に嫉妬してたからだ。
そして、どうやら図星をさしても全くたじろがないらしい。
「私だってせっかくさ。よくわからん着付けとかもやってみてさ。自分なりに上出来じゃんとか思ってさ。そりゃ多少、能力でズルもしたけどさ。それでもやっぱり、大福くんに見てもらって、喜んでもらいたいからさ。頑張ったわけじゃん。それがさ」
「あー、もー! わかりましたって、俺が悪かったですって!」
ブツブツと文句を垂れる姿も、なんとなく苦笑してしまう。
それが大福への想いの裏返しなのが痛いくらいに伝わってくるのが、にやけとして顔に出てしまうのだ。
「なぁに笑ってんのぉ。こちとら気分を害してるんですけどぉ?」
「いやいや、ごめんなさいって。ほら、何か
自然と大福はハルの手を取り、祭りのど真ん中へ誘い出す。
……のだが、ハルは
「……先輩?」
「先に言う事あるでしょ」
「え?」
首を傾げる大福に対し、ハルは繋がれてない方の手を広げ、浴衣の柄を見せつける。
それで察し、大福は笑みをこぼす。
「浴衣、凄く似合ってます。誰より綺麗ですよ、ハル先輩」
「……よし」
大福の誉め言葉に満足したのか、ハルはようやく笑みを返してくれた。
二人のお祭りが、ようやく始まる。
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