エピローグ2 残った謎

「どう思う?」

「どうもこうも、ありえませんよ」


 奈園の中にある工場に持ち込まれた機械。


 それを見下ろしながら、秘匿會奈園支部長の日下と、工場のメカニックが渋い顔をしている。


「このバックパックは民間でアトラクションとして使用するために、かなりデチューンされてるんです。元の能力よりも格段に性能が落ちてるはずなんです」


 持ち込まれた機械は、あの時、大福が背負っていた飛行用バックパック。


 矢田の能力が影響して産み出された産物ではあったが、中身は奈園に存在している本来の機械と全く同じものである。


 同じ部品、同じ構成、同じ出力、同じ重量。

 それなのに、おかしいのだ。


「このバックパックは最大出力でも高度は十メートル程度が限界。稼働時間も三十分程度のバッテリーしか積んでません。それが雲に到達出来る高度を出す? 一時間以上も飛行を続ける? そんなわけないでしょ」

「だが、実際そういう報告が上がっている。……事後の現場を見てもそう判断するしかなかった」


 報告は実際にその場に居合わせたハルが行ったものだ。


 大福は直後に倒れてしまったので、全く証言が取れなかったが、ハルの話だけでも日下としては充分信用に足る。


 また、実際に現場付近まで行って二人を回収した秘匿會員からの情報でも、大福が背負っていたこのバックパックが浜からかなり離れた場所で回収出来た事が報告としてあがっている。


 バックパックのスペックを考えればありえない。

 だが、現実にそうなってしまっている。


「これはメカニックの仕事じゃねーですよ。どっちかっていうと、そちらさんの仕事だ」

「……能力が関わっている、か」


 そうとしか考えられなかった。


 しかし、誰のどんな能力が影響しているのかまではわからない。


 機械の能力を向上させ、限界高度や最大稼働時間を突破し、大福を現場まで飛行させる能力。


 そんな能力が存在しないわけではないが、だがあの時、あの浜辺に該当能力者はいなかった。


 ハルの能力が影響した可能性も考えたが、本人への聞き込みでは、そんな能力を使った覚えはないという。


 メカニックは帽子を脱いで、深いため息をつく。


「その……なんて言いましたっけ? ウノ・ミスティカ側のなんとかいうボウズ。そいつがなんかやったんじゃないですか?」

「そうする理由が思いつかない。……可能性としては薄いだろうな」


 矢田が機械に影響したのだとしたら、その理由がなんだったのか、全く見当もつかない。


 そもそも、矢田の能力によってズレた世界が出来上がり、そこから脱出する際に元世界との整合性を取るため、大福の背中に装着されていたバックパックである。


 本来であればこの世界には存在しないはずの一機なのだから、これが矢田の能力の産物であることは間違いない。


 だが、そこにさらに機械を改造し、スペックを格段に上げ、大福がハルを救出するための手助けをする理由など、どこにあるだろうか?


 原因があるならば、別のところにあると考えた方が妥当だとうだ。


「誰の、何が影響したのか……。しっかりと調べなければならないな」


 この事件、解決したと思いたいところだが、謎が多すぎる。

 日下はメカニックに会釈えしゃくし、工場を後にした。


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