3-3 傷とトラウマ
気を取り直すように、大福は一つ『こほん』と小さな咳払いを挟む。
「とにかく、先輩が俺の力を信用するかしないかに
「諦めるのは決まってるんだ……」
「どうせ俺はなんの力もない一般人ですから」
おそらく、秘匿會も大福に大きな期待は寄せてはいまい。
もし万が一、奇跡的に、何かの間違いで大福が影響してハルの力が発揮されれば、棚から
大福としても『精一杯頑張ったんスよぉ』と言い訳が立つぐらいに行動を起こしておけば、真澄や青葉の面目を保ちつつ、状況から離脱出来るというわけだ。
変に森本母娘が秘匿會に楯突いて状況が収束するより、波風は立たないはずである。
「一般人らしく、常道を行きましょう。まずは原因の解明からです」
「原因……?」
「どうしてハル先輩は、能力を充分に使うことが出来ないのか。その原因を取り除けば、問題が解決されるはずです」
面白味のない一般論ではあるが、それゆえに効果も確実である。
大衆に知れ渡っているということは、それだけ長い間、効果と結果が実証され続けた証拠でもある。
ゆえに大福もその一般的な手法で問題の解決に当たろうとしたのだが……
「原因ね……」
意味深に呟いたハルは、持っていた本をテーブルに置き、少し
その様子を怪訝に思いつつ、大福は慎重に声をかける。
「なにか、思い当たることはあるんですか?」
「あるよ。十年も前の記憶だけどね」
俯きながら大福を見るハル。
上目遣いでありながら、その瞳の奥には深い悲しみを見ているようで、彼女を魅力的に感じる余裕もなかった。
「話しにくい事なら聞きませんけど」
「それで大福くんは原因を取り除くことが出来るの?」
「先輩を傷つけてまで体制になびく必要もないでしょう」
「優しいのか、かっこつけなのか……」
大福の発言を鼻で笑った後、ハルは大きく深呼吸をした。
椅子の背もたれに身体を預け、視線を大福から逸らしたまま、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「十年前、まだ私が小学生だったころ。私は自分の能力を
「生まれつきじゃなかったんですね」
「生まれつきだったなら、もっとマシだったかもね。なまじ小学生になるまで普通の感性で生きてきたから、能力の反動は大きかったんだと思う」
「反動? なにか代償が必要なんですか?」
「いいえ、能力の発動自体にリスクはないわ。……でも、能力によって引き起こされた結果は私に責任を求めてくる」
本当なら語りたくはない。思い出したくもない。
そんな記憶を今、彼女は掘り返している。
「当時、私は嫌いな男子がいてね。なにかにつけてイジワルしてくるから、本気で嫌ってた。今にして思えば、その男子にとって私とのコミュニケーションは子供に良くある『好きの裏返し』だったのかもしれない。けど、私にはそれもわからなかった」
「その男の子に力を使ったんですね?」
「そう。そしたら、その子……」
ハルが言葉を切る。
気が付くと、ハルの顔には大量の汗が浮いており、顔色は悪い。
今にも吐きそうな面持ちの彼女を見て察するに、根深いトラウマとなっているのだ。
「先輩、マジで話しにくいなら……」
「いいえ、大丈夫。あなたにも知っておいてほしい。それで、今後の事は考え直してほしい」
真剣なまなざしで大福を射るハル。
今後の事を考え直してほしい、と言った。
それは、暗に『もう近付くな』と言っているのだろう。
「私の能力を受けた男子は、瀕死の重傷を負ったわ」
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