2-8 森本さん怒り心頭

「ってか、なんでそんなでかい話に俺が関わってくるんだ……」

「大福くんがハルちゃんの能力を無効化したからでしょ」


「そんな理由で!? どうして無効化するのかもわかってないのに!?」

「まぁ、秘匿會側からしたら色んな手段を試してもダメだったから、わらにでもすがりたい気持ちなんでしょうね」


 ハルが能力者として覚醒してからずっと、神秘秘匿會は彼女に影響し続けてきた。


 彼女が能力を完璧に引き出せてないとわかってからも、どうすればフルパワーを発揮できるのか、色々と試してきたのである。


 それらはことごとく空振りし、現在もハルは全能力を使うことが出来ていない。

 そのため、どんな要素でも取り入れて、状況の打開を図りたいのだろう。


 どこの馬の骨とも知れない大福に白羽しらはの矢が立つのも、秘匿會のなりふり構ってられないスタンスの表れである。


「あたしが気に食わないのはそこよ!」


 戸惑う大福を指さし、急に青葉が立ち上がる。


「大福は何も知らない一般人よ? そんな大福を急に状況に巻き込むのは人道に反するわ!」

「そうは言ってもね、青葉。私らは組織人。上の決定には従うしかないのよ」


「現場の意見を全く聞き入れないなら、司令部として腐ってるのよ! そんな体制はぶち壊すべきだわ!」

「現場って言ってもアンタ、仮所属だしねぇ」

「じゃあお母さんから何か言ってよ!」


 なるほど、それで大福帰宅直後に聞こえた大声に繋がるわけだ。


 青葉は大福が案件に巻き込まれることを忌避きひし、真澄がそれをなだめるという構図。

 しかし悲しいかな、ここに決定権のある人間がいるわけでもないので、青葉が声を荒げても状況はどうしようもない。


 子供の癇癪かんしゃく以上の状況にはならないのだった。


「ま、そういうわけだから、大福くんは明日からもハルちゃんと仲良くしてやってね」

「それはべつに構わな――」「お母さん!」


「青葉、聞き分けな。アンタも無理言って秘匿會に所属させてもらってるんでしょ」

「うっ……」


 食い下がる青葉に対し、真澄は至極真面目な顔をしてしかる。


 本来、どれだけ能力があったとしても青葉は中学生。まともに会社で働けるような年齢ではない。

 青葉が秘匿會に所属しているのは真澄が働きかけたことと、青葉本人の熱意と、秘匿會の温情による。


 そんな状況で青葉がおかみ楯突たてつけば、除名もあり得る。


 下唇を噛み、黙ってしまった青葉に、大福はそっと近寄って彼女の手を取る。


「心配してくれてありがとな、青葉」

「……別に、アンタの心配をしてるわけじゃないわよ」


「でも大丈夫だ。ハル先輩とちょっとお話するぐらいで良いなら、俺が危険に巻き込まれるようなこともないだろ」

「わからないでしょ。学校にウノ・ミスティカの武闘派が来るかもしれないじゃない!」


「そうならないように、大人が頑張ってくれてるんだろ? だったらきっと平気だ」

「アンタは……楽観的過ぎるのよ!」


 吐き捨てる様に言った青葉は、大福の手を振り払って自室へと駆け込んでしまった。


 それを見送り、大福も真澄も苦笑する。


「仕方ない子だよ、ホントに」

「俺としてはありがたいですけどね。アイツなりに、俺を想ってくれてるんだと思うし」


「大福くんがそれをわかってくれてるなら、あの娘も救われるでしょ。……さて、じゃあ私はまた出かけるわ」

「どこへ?」

「秘匿會支部。正直に言うと、私も今回の沙汰については納得いってない」


 真澄は笑顔を浮かべてそう言うが、言葉端から怒気どきにじんでるようにも感じられた。


「せっかく大福くんに安心して暮らせる場所を提供できると思ったのに、これじゃあ奈園に呼んだ意味も薄くなっちゃうもの」

「俺は別に構いませんよ。真澄さんには充分お世話になってますし」

「私の気が済まないの。出来るだけ苦情は連ねてやるわ」


 テキパキと外出の準備を終えた真澄は、『じゃ』と軽く手を挙げて出て行ってしまった。

 大福は森本母娘からのありがたい愛情を感じ取り、嬉しくも気恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

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