2-1 どうだった?


 大福が目を覚ますと、そこは森本家に用意された自室であった。


 まだ引っ越してきて間もないので、荷解きの終わっていない段ボールが幾つか転がっている。

 カーテンは閉じられているが、陽光が差し込んでいるところを見ると、どうやら夜ではないようだ。


 しかし……


「今、何月何日、何時何分だ……?」


 記憶は青葉と下校したところで途切れている。


 あれからどの程度、気を失っていたのか、全くわからない。

 近くのローテーブルに置いてあった端末を確認すると、始業式の翌日、午前五時半。本日も平日である。


「丸一日も経過してないのか」


 気を失ったのは正午前後だったはず。

 あれから何があったのか、確認しなければならない。


 大福は手早く着替えを済ませ、自室を出た。




 リビングに出ると、真澄も青葉もおらず、書置きだけがテーブルに置かれていた。

 そこに書かれている内容は昨晩から真澄が出かけている事、そして具合が悪いなら薬は戸棚に入っているという事であった。


 内容から察するに、筆者は青葉か。


「具合が悪いなら……?」


 気を失っている間に、大福は具合を悪くしたのか。


 それで早めに休み、今、無駄に早起きをしてしまったのかもしれない。


 だが、別に体調は悪くない。

 身体のどこにも不調はなく、なんなら軽快さすら覚えるぐらいだ。


「出来れば青葉に詳細を確認したいところだが、この時間では無理か」


 現在、午前六時前。


 昨日はゆっくりと朝の準備をしていた青葉を見るに、こんな時間に叩き起こせば、ただでさえ塩対応の彼女は烈火のごとく怒りだすかもしれない。


 触らぬ神に祟りなし……とは思うが、情報源は今のところ青葉しか思いつかない。


「とりあえず、青葉が起きてくるまで待つか」


 朝食の準備をしつつ、大福は青葉を待つことにした。



****



 一時間ほど経過した午前七時。


「……あら、ゆっくりしてるじゃない」

「おう。ちょっと確認したいことがあってな」


 起きてきた青葉がリビングにやってきて、挨拶もせずに声をかけてくる。

 別に律儀に挨拶を交わす事に固執しているわけでもないため、大福も用件を先に述べた。


「なによ、朝倉先輩の事なら教えないわよ」

「俺が知りたがるような有益な情報を、何か知ってんのかよ」


「ふふーん、男子が知りたがるような事は、幾つかストックしてるわよ?」

「……それはそれで気になるが、俺が知りたいのはそれじゃない」


 確かに気になる。


 ハルの事もそうだが、中二病の産物だとして片付けられた秘匿會ひとくかい、ウノ・ミスティカなどの謎ワードについても興味は尽きない。


 だが、それをここで聞き出そうとしても、たぶん適当にはぐらかされるだけだ。

 であれば、引き出せそうな情報に絞る。


「昨日、俺、気を失わなかったか?」

「……はぁ?」


 単刀直入に尋ねてみたら、青葉はバカを見るような顔で大福を見てくる。


「何言ってんの、アンタ」

「いや、マジな話だ」


 対する大福は至極しごく真顔。


 その表情を見た青葉は、神妙にため息をついた後、


「別に、家に帰って来てからお母さんの作ってくれた昼食を食べて、そのあと夕方ぐらいに『気疲れしたから早めに休む』って言ったきり、アンタの様子は見てないけど。……あれを『気を失った』と表現するなら、そうなのかもね」


「その、早めに休む、と発言するまでに、おかしな挙動は?」

「……アンタ、マジでなんかあったの?」


「バカお前、俺様になにかあったように見えるか? ただちょっと俺様の常識に囚われない自由な発想は凡百には通用し難いから、青葉が不思議に思った行動はいましめておこうかな、と思っただけだ」


 心配しているような青葉に、出来るだけ軽い調子で返事をし、あまり重大な案件ではないように装う。


 大福自身にも事態の大小が把握できないため、変に心配をかけるのは本意ではない。

 そんな大福の様子を見てか、青葉は軽く笑いながら首を振った。


「いつものアホ面だったわよ」


****

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