第九話 たった一言に込める想い
scene36 雪景色
―大知―
目を覚ますと、見慣れた自分の部屋と様子が違った。
ここどこだっけ、と体を起こし、ようやく眞白と旅行に来ていた事を思い出す。
隣に寝ていたはずの眞白がいない。トイレかな、と思っていたら洗面所の戸が開く音がした。
もうすっかり身支度を整えた眞白が、自分の歯ブラシとタオルを手に持ち出てくる。目が合った。
「お、は、よ」
ゆっくり口の動きを意識して言ってみる。
眞白はちょっと照れくさそうに耳を赤くしながら、おはよ、と少し掠れた声で返事をしてくれた。
宿を出て、近くのカフェで簡単に朝食を済ませた。午後からスケジュールが入っているせいで、すぐに東京に戻らないといけない。
駅に着き、電車を待つ。空いたベンチに並んで座った。
ふと思いつき、スマホを出して眞白に話しかけた。
「眞白、誕生日いつ?」
スマホを渡す。12月27日、と打って返してくれた。
「あ、もうすぐじゃん。楽しみだね」
画面を見せたら苦笑された。
『もう誕生日が楽しみな年齢じゃないで』
「そう?」
悠貴から聞いた事を思い出す。確か自分の一個上だと話していたから、二十二歳になるはずだった。俺の二歳下か。
「やっぱり冬生まれなんだ」
そう言うと、首を傾げられた。
『もしかして名前のこと?』
「あ、そうそう。何となく、雪から連想したのかなって思ってて」
苗字と合わさると余計にそうとしか思えない。
案の定、眞白は『正解』、と打って見せてくれながら笑った。
「やっぱりそうなんだ」
そう言うと、眞白は少し考えてから、長い文章を打って返してくれた。
『俺が生まれた日な、夜やったらしいんやけど雪が降ってたんやって。病室の窓から見える景色が真っ白で、街灯に反射した雪がすごく綺麗やったらしい。それで、眞白。降り積もったばかりの雪みたいに、真っ白で純粋な人でありますようにって』
「そうなんだ」
眞白のお母さんが、病室から見ていたであろう景色を思い浮かべた。
「……うん、やっぱりよく似合うよ。眞白にぴったりだと思う」
眞白は困った様に笑い、そんな風に言うの大知くんくらいやわ、と打って返してきた。
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