scene16 恋

―大知―

慌てた様子で楽屋を出て行く眞白の背中を見送っていたら、千隼が肩を叩いてきた。

「今の人、ハルくんの友だちなんだよねー?」

眞白が出て行った扉を指差す。

「何で大知くんと仲良いの?」

「えっとね……」

千隼に、悠貴の落とし物を届けに行った時に知り合った事を話す。

「結構、趣味とか合うんだ。一緒に居て楽しいんだよね」

「そうなんだー」

千隼が無邪気に笑う。

「大知くん、眞白くんの事が好きなんだねー」

「……へ?」

急に放たれた一言に固まる。

「いや、え。好きって……」

「だってそうでしょー?」

あはは、と邪気の無い笑顔を向けてくる。

「大知くんが、あんなテンション高いの初めて見たもん。眞白くんに話しかけてる時、すっごく楽しそうだった!」

「そ、そう?」

「うん、仲良いんだなーって。良かったね!良い友だちに出会えて!」

「あ……え?」

何か勘違いして聞いていた事にようやく気づく。

「あー、好きってそういう……」

「え?なに?」

「や、何でもない。あー、喉乾いちゃったなー」

自分でもびっくりするくらい、わざとらしい言い方をして席を立った。

自分の荷物のそばに置いていた、飲みかけのペットボトルの蓋を捻る。温くなった水を飲み、再び蓋を閉める指先が震える。

たぶん千隼はそんなつもりじゃなくて、何の気無しに言っただけだったと思う。

でも。

最初に見た写真の中の、控えめな微笑み。

初めて会った時、スマホに向かって何を話していいか分からず慌てる俺を見て堪えきれずに吹き出して思い切り笑った顔。

小さな雪の結晶を指に載せて、嬉しそうに見せてきた時の無邪気な笑顔。

次から次へと思い浮かんで、その度に鼓動が増していく。

『大知くん、眞白くんの事が好きなんだね』

……そうだね、千隼の言う通りだ。

知らない間に俺は、眞白に恋をしていた。

眞白の事を、好きになっていた。

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