第4話

 僕は多分、どこか思い込んでいたのかもしれない。

 君のことは変えられる、とかそんなこと。でも、人を変えることなどできるはずがない、今回、それを、強く知った。

 「はあ、はあ。」

 馬鹿だ、君のためを思って僕がけしかけたことなのに、今全力で逃げている。

 しかし、それを決して責めない。

 君は分かっている。

 自分の中に存在しているなにかが起こしたことであって、別に、いくらけしかけたからって、扇動したからって、僕は悪くない、と、思っている。

 そういう所が気に入っていた。

 それは、僕には無い部分だったから。

 僕にはできない、全てに言い訳を付与して、それでバランスを取ろうとしている。

 僕はいつも、負け犬だった。


 「ねえ、本当に大丈夫?」

 息を荒げながら起きると、隣りには妻がいた。

 「ああ、平気。」

 僕は、なるべく顔を合わせないようにして部屋を出た。

 いつも、この人の顔を見ると罪悪感であふれてしまう。

 それはそうだろう、僕はこの人のことが好きではなかった。が、この人だって同じだ。

 そう、思っている。

 けど、

 「…はあ。」

 僕は、もうテレビをつけることはしない。

 君のその後なんて知らない、君と約束したのだ。

 もう、関わらないって、君は、初めて感情をあらわにした。まじめな顔をして、お前は関係ないから、といった。

 関係無いハズなどないのに、ねえ、何なんだよ。

 僕は、もう、疲れていた。

 自然と、足は外へと向かった。

 軽く身支度を整え、僕は家を後にした。

 もう戻るつもりはない、きっと妻との関係もこれで終わるのだろうと確信している。

 「………。」

 無言を貫き通して、そのままドアを閉めた。


 「お前、何なんだよ。」

 「マジでさあ…。」

 荒い息をあげ、恐怖をあらわにしている。

 至って普通の男だった。僕と変わらない、平凡なサラリーマン。

 なのに、

 「なんで、あいつに執着するんだよ。僕は、犯罪者の子供とか、そんなの気にしてないし、おかしいだろ?そんなの、関係ないじゃないか。」

 「…はは。」

 彼は、軽い笑いを漏らした。

 だから、話は平行線のまま、意思の疎通などとれないという所に決着した。

 そして、僕はその場を後にした。

 ぐちゃぐちゃに顔を歪めたその男は、僕の方を睨んでいた。

 ちらりと後ろを振り返ったら、その強い視線が僕を刺していた。

 「分かってない…。」

 小さな声で一つ、彼は漏らした。


 「なあ、あいつと会ったんだって?」

 「ああ、ごめん。」

 君は、いつもよりも真剣な顔でそう言った。

 「やめてくれや、俺は別に、何でもないんだ。同級生同士の軽いいざこざみたいな、そんな程度のものなんだ。あのさ、俺のこと心配とかそんな感じ?だったらうれしいけど、な、頼む。」

 君はいつも大人だった。

 僕より年下のくせに、生意気だった。

 「…ごめん。」

 もう一度そう言って、僕は会話を止めた。

 君も、そして何も言わなくなった。

 いつも通りの日常が過ぎ、僕らはただ、黙っていた。

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