第34話 別れと奴隷


 一部屋ずつ取ってあるのでホテルを部屋に突っ込む。悪酔いが過ぎるぞあいつは。

「ふぅ、お、アリィも起きたか」

「はい、寝てしまってすいません」

「いい、気にすんな。疲れてたんだろ」

「はい、それでご飯は…」

「これでも食ってまた寝ろ」

 ハンバーガーを渡すと喜んだ。


 この街でホテルとアリィとはお別れだ。

 また情が移ってるが俺が決めたことだからな。


 次の日ホテルは荷馬車を一台売却すると商売の話をしにアリィを連れて商業ギルドに入って行った。

 俺は帝国では何も売らないつもりだ。

 面倒だし、王国とは違うからな。

 ホテルは商売が成功したらしく喜んでいてそれを勉強していたアリィは尊敬の眼差しだった。

「明日私達は旅立ちますけど本当について来ないんですか?」

「あぁ、ここでお別れだ」

「そうですか、ならここで金貨50枚渡しますね」

「確かに」

「数えなくていいんですか?」

「そんなもんで誤魔化すような人間じゃないだろ?」

「はい!私はそんな小さな人間じゃないですよ!」

「ならこのままでいいだろ」

 ホテルはどこか寂しそうだがもっと寂しそうなアリィに話しかける。

「ホテルを越える大商人になれよ」

「は、はい!」

「泣くな!また会えるさ」

「はい」


 ホテルが泣いている。お人好しにも程があるぞ。

「またな!」

「はいまたどこかで!」

「お元気で」

「おう!」

 次の日は街で二人を見送ると街を散策してみる。

 まずは冒険者ギルドに行くと首輪をつけた人間も何人かいるな。

 借金奴隷という奴らだろうか?

「ご主人様。こちらがよろしいかと」

「ならそれでいい!」

「はい!」

 奴隷はそれを持っていって受理してもらうと冒険者について行った。

 奴隷に選ばせるなんてすごいやつなんだな。

 借金奴隷は賃金を与えない代わりに衣食住を必ず提供し、それを差し引いた残金を借金に割り当てる。それが完済すれば晴れて奴隷から通常の人間と見られるわけだが、いまのようにしていて、もし主人が死んだら強制的に奴隷ではなくなれる。

「大したもんだな」

「なんでぇ、兄ちゃんは知らねえのかい?あれはAランク冒険者のジンだよ」

「へぇ。Aランクかぁ。それで借金奴隷を解放してるんだな」

「ん?そんなことしてないぞ、あいつはそれ以上に金遣いが荒いからな。奴隷達も荒くなってて抜け出せなくしちまってんだよ」

「なんで?衣食住を提供したら賃金が」

「あー、そういうのを使っちまってるのさ」

「へぇ。そういう奴隷がいるんだな」

「どうせ借金奴隷なんてそんなもんさ」

「そっか」

「そうそう、ほい」

 手を出す子供。

「なんだ?」

「情報料だよ!」

「ああ、いくらなんだ?」

「銀貨一枚」

「あぁ、ほれ」

「まいど!」

 小僧が金稼ぎか。すげぇな。

「も一ついいか?」

「いいぜ何でも聞きなよ」

「あぁ、これで一日ついて来て色々教えてくれないか?」

「だ。大金貨?!初めてみたよ。金貨でいい」

「何だ遠慮しなくても」

「金貨で十分な知識しかねえからな」

「そうか、じゃあほれ」

 金貨を渡す。

「俺はイージだ」

「俺はヒロトだ、よろしくな」

「へぇ、ランク幾つなんだよ?」

「は?Aだが?」

「まじで?」

 驚くイージに冒険者証をみせてやる。

「ほ、本物だ」

「だろ?」

 イージと二人でカフェに行き食べ物を出してコーヒーだけ頼むと。

「うめぇ!なんだこれ!」

「ただのドーナッツだ?それよりさっきの話は本当か?」

「うまっ!さっきの話ってジンの奴隷の話か?本当だよ。奴隷のくせに金遣いが荒いんだ」

「じゃあ賃金を渡してるんだな」

「そうみたいだぜ?」

「そうかぁ。それはいいことなのか?」

「いいことが悪いことかはその時の奴隷の判断だろうさ」

「そういうことか」

「も一個食べていい?」

「何個でも食べろ」

「うひょー、太っ腹だね!」

 当たり前のことだがそう言う使い方もあるってだけか、全額渡すつもりもあるけど小出しに渡して使わせてるんだな。

「まるで悪魔みたいなやつだな」

「それでいいって言ってるがダメなだけさ」

「奴隷でも見に行くかい?」

「そんな簡単に見れるのか?」

「どっからきたんだよ?王国か公国あたりか?」

「王国だ」

「なら知らないわな、帝国は奴隷が盛んだ。なぜかと言うと王様も元奴隷だったからだ」

「へぇ」

「逞しく生きる奴隷の凄さを実感した。俺はここに奴隷の帝国を作るって、作っちまった」

「あはは、凄いやつだな」

「でももう若くない。次の帝王は弱々しい長男か、荒々しい次男かで揉めてるらしい」

「そんなことまで知ってるのか?」

「これは俺が独自に得た情報だぜ」

 帝王も大変そうだなぁ。

「んで?行ってみるかい?」

「あぁ。行ってみるよ」

「そう来なくっちゃ」

 イージはドーナッツを全部自分の袋に入れて食いながら先頭を歩く。

「うまい!これ本当にドーナッツかよ!」

「あぁ。いろんなドーナッツがあるもんだ」


「うしっ!こっからが奴隷市場だから気合い入れてな」

「あ。あぁ」

 市場があるのかよ。

 老若男女勢揃いだな。

「こっちだ。よう爺さん」

「あれ、イージ君、なんか御用でも?」

「あぁ、この人に色々教えてやってくれよ」

「教えると言っても奴隷のことしか」

「王国から来たんでな」

「そう言うことなら、私はカイロと申します」

「ヒロトだ、よろしく」

 握手を交わす。

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