第29話 再出発
久しぶりの異世界はあの時と何も変わらないが俺の気持ちは変わっている。みんながいなくなった日から忘れたことなんてなかったが。指輪はチェーンに通してネックレスとしてずっと持っている。
「すぅー、はぁー」
一呼吸すると下に降りて行く。いまにもチャムが呼び出しそうな気配を感じながら降りていっても何もない。
そりゃそうだよなアイツらはもういないんだから。もう涙も枯れるほど出した。
もう一人で大丈夫だ。
もちろん忘れたりはしないよ。
服の上からリングを握る。
外に出るとまだ昼間だ。
冒険者ギルドに入ると依頼書を見て行くがこれといっていいのがなかったので、門の外に出て少し身体を動かす。
よし、次の街へ行こう!
走っていくと荷馬車を追い越して行く。
次の街まで四日というところか。
結局はどこかで一泊しないといけないんだよな。
走りながらそう思い途中で一泊できるようなところを探すことにする。もう夕方だからだが、いい感じのところが見つからないので暗くなる前に焚き火をする。ハンバーガーを食べて腹を満たすと焚き火を見ながら一人で旅するなんてもう十何年ぶりだろうか、ウルフ系の魔物がやってくるのを見て生肉を投げるとそれを持ってどこかへいってしまった。
朝まで起きて明るくなり始めたらまた走り出す。眠くなったら扉をだして日本に帰って寝る。起きるとニュースで万能薬擬きのことをやっていた。伊藤は世に出すことを選んだみたいだ。
良いニュースを見た後は力がみなぎる。
俺もあちらでの旅を頑張ろうと異世界に出てまた走り出す。
走りながら景色を眺めるとやはりどんなに遠くても思い出すのはアイツらとのことだけだった。
振り切るように走り出して次の街までようやく辿り着いたのはもう暗くなり始めたところで門が閉まる寸前だった。
「良かったなお前、ギリギリセーフだ」
「はい、ありがとうございます」
冒険者証を見せて街の中に入るとのどかな感じがする街だ。
宿を見つけて泊まると娼婦がやって来るが要らないと帰した。
朝、女将に娼婦はいらないと言い、飯を食うとこの街を回る。
魔法屋があったので入ってみると悪魔の魔法屋だったので辞めといた。
他にも魔法屋があったのでそこに行く。
「何か掘り出し物はあるか?」
「んー、索敵魔法かな?」
「それを買うよ」
「まいどあり!」
索敵魔法を覚えると周りの人間の感情が見えて来る。それは良くも悪くも普通でありこちらに敵意を見せるものではないということがわかる。
カフェに入りコーヒーを飲むドーナッツを一つ出して食べると懐かしくも甘い味に咽せてしまった。
まだ引きずってるんだな。
まぁ、あんな別れ方だったから仕方がないけどな。
それに俺にはもう行く当てのない根無草だしこの世界を旅するだけで十分だ。
「甘い匂いだ!」
「こら辞めとけよ」
獣人というのだろうか男と女のコンビが俺の席までやって来る。
「まぁいいや、どうせ俺じゃ食べきれないからな」
ドーナッツを出してやる。
「いいのか、すまんな」
「いやった!いただきまーす」
「あはは、思う存分食べてくれ」
チャムを思い出しながら楽しい気分になる。
「どれ俺も一つ」
「だめだよ!私が貰ったんだから」
「いいだろ一つくらい!な?」
「独り占めは良くないと思うぞ」
「だろ?早く一つよこせよ」
「じゃぁ、はい」
「食いかけよこすんじゃねーよ!」
「だってまだ全部食べ切ってないからいいだろ?」
「あははまだあるから一つくらいやれよ」
「まだあるの?ならどうぞ」
「おう!どれにしようかな、これでいいや」
「あ、一番うまそうなの取るなよな!」
「うめぇし、あめぇ」
店員に飲み物を頼む男の獣人、にそれに乗っかって頼む女の獣人。
「俺はヒロト、そっちは?」
「もぐもぐもぐ」
「この食いしん坊がキャロットで俺がデニムだ」
「よろしくなキャロット、デニム」
「あぁ、よろしく」
俺とデニムは握手をするがキャロットは目でウインクしていた。食ってる手は止まってない。
「デニム達は冒険者か?」
「そうだぞ、これでもCランクだ」
「そうか、俺も冒険者でAランクだ」
「げっ!そんな上の人に失礼を」
「いいよ、旅してるんだ、ランクなんか関係ないさ」
「ん、ならこのまま話をするよ、Aランクなら知ってると思うけど、こっから先は行かない方がいいぜ?」
「なんでだ?」
「悪魔の住むやかたがあるんだ」
「悪魔…」
「何でも悪魔の館に入ったら皮を剥がされて殺されるらしいぜ?」
「どこにあるんだ?その館は?」
「おいおい、行くつもりかよ」
「あぁ、悪魔には苦い経験しかないからな」
悪魔はぶっ潰す。
「この先の三叉路の一番右の道だ」
「ありがとう」
「でも本当に気をつけな!行くなとは言わないが」
「あぁ、わかったよ」
それにしてもキャロットはよく食べるな。
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