第28話 弔い

「あれ?神父じゃね?」

「なんでこんなとこに?」

「神父ーグハァ」

 チャムの心臓から剣が突き出ていた。

「なんだ?お前らは?」

「なんだじゃねーよチャム!」

「そいつは神父じゃない!早くここから逃げないと」

 ヤジリがいうがクオンが槍を片手に攻撃すると男はガードして心臓を突き刺す。

「ゴハァッ!」

「シャルロッテ!」

 剣で攻撃するが傷を与えただけでシャルロッテの胸にも剣が刺さる。

 ヤジリは逃げられないと思いながらも隙を窺い矢を放つが、受け止められた。遠くから最愛の人が走ってきてるのを見て、

「ごめんね」

と呟いた。




 俺とルーはその場で酒を飲む。

「あいつらは可愛くてねぇ」

「知ってるよ!」

「昔の話さ、どんなにきついことでもやり遂げてきたんだ」

「…」

「なのに悪魔にやられるなんてね」

「なぜ悪魔は人間を殺すんだ?」

「さあね?でも被ってるのは人間の皮だ」

「そんな…」

「紅蓮隊が解散したのもそのせいさ」

 ルーはグラスに酒を注ぐ。

「一人やんちゃな奴がいてね、無謀にも悪魔に挑んでしまったんだ」

「なぜ?」

「そいつが友人の皮を被った悪魔だったからだよ」

「…」

「私達も手を貸したさ、でも五人で行って二人やられたね」

「悪魔は?」

「きっちり灰にしてやったさ。でも二人も同時に失うこともなかった。私達がもっと強ければね」

「…」

「あの子らも馬鹿じゃない、多分そんなことがあったんだろうさ」

「若くないおじさんだったぞ」

「そうかい、たぶん神父か誰かだったんだろう。あの子達は孤児だったからねえ、知り合いなんてほとんどいないさ」

「俺がもう少し早ければ」

「自分をあんまり責めるんじゃないよ、たらればはいい結果に結びつかない」

「あの子達はいい夢が叶ったんだ。あんたの嫁さんになるってね」

「…俺が」

「あぁ。あんたがいなけりゃ無駄死にだったさ」

 ちびりちびりと酒を飲む。

 悪魔は死んだ人間に乗り移る。

「こうやって見送られるのも悪くないだろ?」

「シャルロッテ、チャム、クオン、ヤジリ」

「あんたら旦那置いていなくなるんじゃないよ!」

「ルー…」

「私より先に死んじまって!ふざけんな!ふざけんな!悪魔なんかほっとけば良かったのに!」

「…そうだよ!俺を置いて行くなよ!指輪だってしてただろ!俺を一人にしないでくれよ!」

「あんたら私が行ったらもう一度修行のし直しだからね!」

 火が消えるまで飲み明かすと悲しさと虚しさだけが残っていた。

「さぁ!あんたもあたしももう別れようかね」

「あぁ、ルー!元気でやれよ!」

「あたしゃいつでも元気さ!あんたも死ぬんじゃないよ!」

「あぁ、じゃーな!ルー」

「ありがとうよ!ヒロト」

 その日のうちに宿から出る。アイツらは荷物をマジックバックに全部入れてたからアイツらの部屋には何も残ってなかった。


 街を出る前に荷馬車は売り払った。門を出ると東に街道沿いを歩く。昨日までとはうってかわって一人で歩いている。

 涙が出そうになるのを堪えて走り出す。

次の街に着くと宿に泊まり日本に帰る。

 せっかくの指輪が泣いているように見えた。

 シャワーを浴びて涙を隠す。

 最愛の人たちをなくすことがこんなに辛いことだって親父が亡くなった時で分かっていたのにな。


 風呂から上がるとビールを飲む。せっかく異世界人になったんだぜ?お前たちと一緒に歩むために。


 一人部屋で泣いた。


 次の日も異世界に行くのが辛くて行かなかった。一人で街をうろつき飯も食わずに酒を買い込んで部屋に戻る。

「ヒロト」

 シャルロッテはしっかりしてるようでちょっと抜けてたな。

「ヒーロト」

 チャムはいつも元気で抱きついてきてた。

「ヒロト」

 クオンはほんとは優しくて姉御肌だったし。

「ヒロト」

 ヤジリはほんとは甘えたでどこに行くにもついて来てたな。

「「「「ヒロト」」」」

 目が覚めると自分の部屋でソファーに横になって眠っていた。四人に怒られた気分だ。

 飯を食ってシャワー浴びてしっかりと服を着ると、伊藤に電話する。

「よう。できたか?」

「まだだ。用はそれだけか」

「ああ、頑張れよ」

「あぁ」

 そして電話を切る。

 やっぱりまだ出来てないか。

 万能薬を一つ飲んでみる。

 何か効いたわけじゃないがヒールをかけたような気分だな。

 まぁどこか悪いわけでもないしな。

 薬学の勉強をし始めたのはこの頃からだろう。異世界に行くことがなくなり、勉強をして大学の薬学部に入って卒業した。

 伊藤と一緒の仕事をするようになったのはそれから五年後だったと思う。

 万能薬擬きを完成させるのに十年以上かかったがやっと少し希望が見えた。

「お前はいつ見ても変わらないな」

「お前はどんどん老けていってるぞ?」

 伊藤とはこうやって飯を食う中になっていた。

「とりあえず乾杯」

「あぁ、乾杯」

 やはり市販されることはなく、治療費として高価な薬となってしまったが、これで助かる人が増えるだろう。

「さてと、俺は仕事を辞めたぞ」

「は?お前がか?冗談だろ?」

 伊藤が驚いている。

「いや、万能薬ができるまで頑張ろうと思っただけだからな」

「そうか、俺だけじゃ作れなかったからな」

 俺はこれで思い残すことはないと思った。

「じゃーな」

「あぁ、じゃーな」

 伊藤と別れた俺は十数年ぶりにクローゼットを開き彼方の世界に行った。

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