第16話 ヒール


 俺が大金貨一枚をもらったと思ったら大男どもが婆さんのとこにやって来ていた。

「おう婆さん!ここはイカサマなしでいこうじゃねえか」

「へぇ、坊やに取られた金貨を取り返すチャンスさね」

「またイカサマやったら承知しねえぞ」

「わたしゃイカサマなんてしてないよ」

「お!またやるなら俺も混ぜてくれよ」

 婆さんが可哀想だからな。

「お前さんもかい?おまえさんとは賭けにならないからねぇ」

「なら予想だけするよ」

「あぁ、そうしておくれ」

「じゃあいくよ」

 サイコロを真ん中に入れる。

「よし!今度こそ真ん中だ!」

「俺は右ね」


「正解は右さ」

「このババアぶっ殺せ!」

「はぁ、しょうがないな」

「おや。助けてくれるのかい?」

「手伝うだけさ」

「ならそっち半分よろしく」

「はいよ」

 5分とかからずに大男どもが倒れている。

「大金貨一枚貰うよ」

「くっ!クソッタレ!」

 大金貨一枚をもらった婆さんは店じまいをしてついて来なと言う。

 宿屋に着くと俺は部屋を取って下で待ってる婆さんのとこに向かう。

「あんたいい男だね」

「あははは、婆さんに言われても嬉しいよ」

 俺久しぶりに笑ったような気がした。

「私がもうちょっと若ければねぇ」

「あはは、そうだね」

「「あははは」」


「あんた飲めないのかい?」

「ん?まだ飲みたくないだけだよ、酒は二十歳まで飲まないことに決めてるんだ」

「へぇ、つまんないねぇ」

「こうやって付き合ってやってんだから無理言うなよ」

 俺は飯を食いながら婆さんはアルコール度数の高そうな琥珀色の酒をちびちび呑んでいる。

「あんたここらじゃ見ない顔だね?」

「今日この街に着いたとこさ」

「行くあてはあんのかい?」

「さぁ?ブラブラしてるよ」

「なんだい。あんたも根無草かい」

「そうそう、あ、王都には行ってみたいかな?」

「なんでだい?」

「知り合いで紅蓮隊ってのがいてさ」

「紅蓮隊!私の教え子達さね」

「うお!まさかの師匠って呼ばれてたのが婆さんか」

 変なとこで縁があるねぇ。

「うちのバカ娘達はちゃんとやってたかい?」

「おう、どっかのお嬢様の護衛をしてたよ。俺はクビになったけどね」

「あっははは!クビになったのかい?」

「お嬢様のやり方が気に食わなくて言い争ったらクビになった」

「いーひっひっひ、あんたらしいね」

「だろ?紅蓮隊のみんなとは楽しくやってたんだけどね」

「へぇ、こんないい男ほっぽって何やってんだか」

「あはは、みんな良い子達だったよ」

「それこそその護衛を辞めてついて来なきゃだめさね」

「そしたら紅蓮隊の名に傷がつくじゃんか」

 琥珀色の酒をグイッと飲んでおかわりを頼むと、

「そこらへんがまだ若いんだよあの子達は」

「紅蓮隊って名付けたのを嫌がってたよ」

「紅蓮隊は特別な名前だからね」

「へぇ、どんな意味があるのさ?」

「昔の私達のチーム名さ、せっかくつけてやったのに」

「へぇ。昔はバリバリの冒険者だったのかい?」

「この国一番の冒険者チームさ、国王でさえ頭の上がらないね」

「そりゃ凄いじゃないか、婆さんもやるねぇ」

「あはは、まぁね、喋りすぎちまったよ。それよりもあの子達の強さはどんなもんだったかい?」

「あー、普通かな?」

「あはは、あんたにそう言われればそうだろうさ。普通、普通かい」

「いや、良くも悪くも普通って意味でって言うか」

「いや十分さね、あの子達はまだ自分を越えられていないんだね」

「自分を超える?」

「そうさ、誰でも自分を越えなきゃ行けない時が来るのさね」

 俺は自分を超えたのか?

「それは自分を超えたのかなんてじぶんじゃわからないもんさ。でもあんたからみて普通ならまだ超えられていないってことさ」

「俺は自分を超えてたのか?」

「そりゃそんだけ強くて自分に自信がないとあんな風に私を助けようとなんてしないさ」

「俺は自分に自信なんてないよ」

「そりゃ、自信のあるないはその時の行動さ。あの時あんたは自信を持ってた」

 あのときはそうだな自信を持ってたわ。

「だから常日頃自信を持ってる奴なんてのはいるわけがないさね、そう言う性格のやつもたまにいるけどね」

「まぁ、俺はそんな性格じゃないな」

「そうさ、あんたはあんたさ」

「ここは俺が奢るよ。ありがとな婆さん」

「私はルーって言う名があるさね」

「あはは、わるかったね、ルー。俺はヒロトだ」

「それじゃねヒロト」

「おやすみルー」

 俺は代金を置いて部屋に入る。

 部屋から日本へ帰るとまだ昼間だ。

 さてと、何から始めようかな?

 できればこの部屋を買い取りたいところだが、それには金がいるな。

 手っ取り早い方法は。

 まずは癌センターに行こう。

 病院に着くと癌が治せるかを試してみる。

 「ヒール」

 適当な人にヒールを施す。

「お加減はいかがですか?」

「なんじゃお主は痛みが急に引いたぞ?」

「じゃあナースコールで知らせてください、癌が治ってるはずです」

「そんなばかな」

 お爺さんはナースコールを呼ぶと顔が治ったみたいじゃといい、精密検査を受け癌が治ったことを喜んでいた。

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