9、水槽の水替え

 浜田センセイと張り子のお面のことでやり合った私は、少し吹っ切れた。


 別に成績だの、アイツによく思われようなどと考えることは無駄なことだと悟ったからだ。


(悪者によく思われてどうする!?

 美少女戦士になれなくても、悪に従う必要はない!)


 私には、家族という強い味方がいる。

 帰る場所がある。


 それだけで、アイツの非道にも耐えられた。


   *

 

 私は、授業参観の前にくーちゃんを誘って、放課後に金魚の水槽の水替えをすることにした。

 くーちゃんは、生き物係だったが小さく非力で水槽の水替えをやりたくてもできなかったのだ。


 緑の藻で汚れた水槽には、金魚が五匹いた。

 私は、金魚をすくって別のバケツに避難し、掃除用のホースを持って来た。


「重い水槽はこうやって水替えをするんだよ」


 そして、高い位置にある水槽に片方のホースを入れてみせる。すると汚れた水がホースをつたい下のバケツへ流れた。


 サイフォンの原理だ。


 そうやって、水の量を減らしてから水槽を運べばいいと父に教えてもらっていた。

 水槽の水がどんどん減っていくのをくーちゃんは不思議そうに見ている。


 そうして、二人で水槽を手洗い場に運びタワシでごしごしとこすり、藻を綺麗に落とした。

 ピカピカになった水槽を元の位置に戻し、水を入れ氷砂糖を砕いたようなカルキ抜きの薬を入れる。

 探せばちゃんとそういう物が水槽の周りにあった。


 水槽の中で、オレンジ色の金魚が元気に泳いでいる。

 ピカピカできれいな水槽に私とくーちゃんは満足した。

 きっと、誰も褒めてはくれないだろう。


 けれどそれでいい『天知る地知る』だ。


 私とくーちゃんと金魚が知っていればそれでいい。

 

   *


 私は、悪者を倒す美少女戦士にはなれなかった。


 正義を叫ぶ声も、誰かを守る行動も、勇気のない私にはできなかった。

 けれど、妹の手を引くことはできるし、金魚を守ることもできる。

 そして、アイツが描いたマルを真っ黒に塗りつぶすこともできた。


 美少女戦士になれなくても、私は私だ。


 私は、アイツに勝てなくても自分のやりかたで負けなければいい。

 そう決意した頃、朗報が入った。

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