3、こたつの中
私は、学校での出来事が胸につかえたまま家に帰った。
新しい家はまだ、自分の居場所ではないような気がして落ち着かない。
見慣れた家具なのにどこも以前とは違う。
唯一安心できる場所はこたつの中だった。
そのオレンジ色の灯りの中で私は今日の出来事とともに、ひとつの格言を思い出していた。
―――
前の学校の校長先生の長い話の中で、私の気に入っている言葉だ。
なんとなく、正義の味方の信条のようでカッコいい。
悪事は必ず露見するという意味の格言なのだが、同時に善行を認められなくても天地が見ているから腐るなという意味だと校長先生は言っていた。
私はウソや隠し事ができない。
いい子だという単純な理由ではない。隠し事をしているとすぐに後ろめたい気持ちになり、話さずにはいられないからだ。
私はこたつからしぶしぶ出て、母に漢字の豆テストで0点であったことと、そのせいで教師に叩かれたことを告げた。
「今日、漢字の豆テストが0点で先生に叩かれた……。恥ずかしかったよ」
「あらら……。教科書が違うからしょうがないわね。 新しい教科書が来たらがんばって。それまでは、前の教科書で勉強しておこうね」
どんまいと母は励ましてくれた。
叩かれたと言っても、小突かれた程度だと思ったのだろう。
母はさして気にした風はなかった。
私も、0点をとったことの方を大きく言い、叩かれたことはあまり強く伝えなかった。
嘘はつきたくない。
けれど、心配もかけたくはなかった。
私は、胸のつかえが少しとれ、2歳年下の3年生の妹の
美少女戦士が、正義の鉄拳で悪をこらしめる話だった。
*
翌週、再び漢字の豆テストがあった。
やはり0点だった。
再び教室の前方の教卓の前に立たされ、教師に殴られた。
やはり加減がなく、猛烈に痛かった。
殴られたことは悔しかったが、センセイが薄ら笑っていたことと、0点であったことの方が私にとっては屈辱だった。
私はそれでも妹の凛ちゃんと共に学校へ行く。
今日こそは、友達が優しく声をかけてくれるのではないかと期待し裏切られ、浜田センセイにいつ殴られるかとびくびくしながら授業を受け続けた。
そして、帰宅するとこたつの中の温もりに隠れて声を殺して泣いた。
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