第28話 ルーカスのもう一つの悩み

 ルーカスにはもうひとつ、頭の痛い問題があり、悩みがあった。

 ウソンのことである。ウソンの命を数うために、ウソンの置かれていた状況がわからぬままにドクターストップを出してしまったのだ。

 命は無理矢理に救ったが、その後に訪れる不幸の連鎖を予想できなかった。


 ウソンにとって歌がどれだけ大切なものであるかを理解していなかったのだ。

 ウソンが自殺未遂を起こしたのは、メインボーカルで加入したのにグループではほとんど歌わせてもらえずバックダンサー扱いだったことから、鬱病を発症したことだった。そしてアンチのファンが、他のメンバーよりも大人びた外観だったウソンを嫌い、ネット・バッシングの対象として執拗に攻撃したことだったのだ。


 ウソンが所属していたボーイズ・グループは、事務所に多額の寄付をしてくれる富豪の息子をデビューさせるために作られたグループだった。そのグループにはふたりの特別待遇の練習生がいたのだが、しかしふたりはデビューさせるにはあまりに実力が無さ過ぎた。特別待遇のオーディション番組でさえ合格できないレベルだったのだ。しかし事務所としては多額の寄付の見返りとして、デビューさせなかればならない状況だった。そこで急遽、オーディションに受かるように他の事務所から引き抜いてきた練習生がウソンだったのだ。


 ウソンの稀にみる歌唱力のおかげで、グループはデビューのチャンスをつかんだのだが、デビュー後は初めからそうであったように、グループは富豪の息子たちを輝かせるためだけのグループに変容した。ウソンはクビになることは無かったのだが、歌も踊りもあまりに実力がありすぎたせいで、歌も踊りも富豪の息子たちより目立たないように、バックコーラス担当となり、バックダンサーのような扱いを受けるようになったのだった。



















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