第3話 若葉のころ

 デビューをかけたオーディション番組の収録日が迫ってくる中、グループのリーダー、ブライアンはいつものように怒鳴り散らしていた。


 ウソンと同じ年の少年なのだが、彼は外国生まれで、外国育ちだった。

 事務所のグローバル・オーディションに受かり、両親の母国へ来て練習生になってから6年も経つのだが、彼の語学力はバイリンガルにはほど遠かった。


「ノー!ノー!ノー! 

 ヨハン、何回言ったら分かるんだ」


 そう言われた少年は、今にも泣き出しそうだった。

 

 グループのリーダーはバイリンガルではないから、繊細なヨハンの心を理解できず、いつもその言葉で引き裂き、傷つけていた。

 その上、彼は6年間も練習生をしていながら、驚くほど踊りが下手だった。

とうぜん、どこが悪いのかをきちんと言葉で説明できなかったし、実際に踊って少年に手本を見せることも出来なかった。


 それでも少年は一生懸命、罵声に耐え踊り続けた。


「ノー! ノー! ノー!

何度言ったらわかるんだ!

明日も出来ないなら、他のメンバーに代わってもらうからな!」


 リーダーのことばに少年はついに泣き出し、レッスン室から飛び出して行った。

その様子を見てマイケル(ウソン)は、少年が可哀想になった。


 少年はリーダーよりも、明らかに踊りは上手だったのだ。

 少年は振付家が示した踊りを、正確にきちんと再現していた。

 間違って振付を憶えていたのはリーダーの方だった。

 しかしリーダーは事務所に莫大な寄付をしてくれる富豪の息子で、いつも事務所から忖度される練習生だったのだ。


 実はマイケルは、リーダーがあまりに実力が無い練習生だったことから、番組の成り行きを心配した会社の指導陣とスタッフが、デビューを餌に他の事務所から引き抜いてきた練習生だったのだ。


 マイケルは少年を屋上まで追いかけて行き、慰めた。そして実際に踊って見せて、アドバイスを与えた。

 すでにマイケルは振付を完全に憶えていたし、自分のものにしていた。


「君の踊りは未完成だけど間違ってはいない。

 もっと自信をもって 踊るんだ。

  少なくとも君はリーダーよりも踊りは上手だし、審査員はきちんと評価してくれるはずだ」


 ヨハンはいつも理解されない孤独を抱え、悩んでていた。

 何が違うのか、自分でも分からなかったのだが、感情を抑えきれなくなり、よく泣いてしまうのだった。

 その上、彼は弱いにもかかわらず、喧嘩っ早かった。しかしマイケルはヨハンと年が離れていたこともあり、初めから喧嘩の対象ではなかった。


  マイケルは歌も踊りも、グループの中では一番上手な練習生で、その日からヨハンにとってマイケルは憧れの人となり、心から慕う相手となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る