第1話 「月の沙漠」の歌ような運命を生きる王子と王女①
その日ルナは初めて、ウソンに出会った。
しかしどこかで見たことがある顔のような気がした。
『どこで出会ったかしら・・・?』
とルナはいぶかしく思った。
まるで映画から出てきたような美青年の出現にルナは驚いていた。
そして彼をしばらく不思議そうに見つめていた。
青年はそのようなルナの様子に笑いながら、
「はじめまして。ウソンです。お会い出来てとても光栄です」
と言った。
「そうですよね。私も初めてお会いしたと思っているのですが、なぜだかどこかで
お会いしたことがあるような気がして、仕方がないのです」
と言った。
この日ふたりは初めて出会った。
いろいろな事情から、ふたりはこの見合いに臨んでいた。
とうぜんふたりには付き人がいた。
ウソンの隣にいた少し年配の男性が、面白そうに笑いながら、ルナに言った。
「マイケル・ハート、それが彼のもう一つの名前です。
彼の職業は歌手で、最近は俳優もしています。
彼は人気スターだから、雑誌やテレビで彼の顔を見たことがあるはずです」
と、事も無げに言った。
「マイケル・ハート? 本当にそうなのですか?
信じられません。今、人気絶頂のスター、マイケル・ハートが見合いの相手だなんて・・・」
組織は正当な北の王位継承者であるジョンジュンを、鉄壁の防衛体制を引いて、暗殺団から護ってはいたが、父親と同じように暗殺される可能性はゼロではなかった。
それゆえ、妹のルナの結婚相手は重要であり、組織は最もふさわしいと思われるある人物を、長年ずっと探し続けていた。
そしてそれらしい人物をやっと見つけ出したのだが、それがウソンだった。
彼は思っていた通り、その血筋だった。
ウソンの存在は今までずっと、噂されてはいた。
しかし母親が秘密組織の人間で、その組織の手によりすでに粛正されていたため、その真偽のほどが分からなかったのだ。
だからずっとその子は、死んだものと思われていた。
しかしあるとき、アイドル歌手が自殺未遂で、病院に運ばれてきたことから、事態は一気に動いたのだ。
その病院は特殊な病院で、秘密組織が運営する病院だった。
秘密厳守が必要な特別な患者だけを受け入れ、治療する病院だった。
担当医師は駆けつけた患者の母親を見て驚いた。見事に変装はしていたが、見覚えのある顔だった。粛正されたエージェントが、姉のように慕っていた先輩エージェントだったのだ。
医師は秘密裏に、運ばれて来た患者の遺伝子検査をした。
そして彼をすぐに隔離した。
噂は本当で、彼は北の王朝の血を引いていた。
彼の父親は、王朝の血統の中では秀でた才能を示し、未来を嘱望されていた。
しかし祖父が権力闘争に破れたことから、権力の中枢から外され、外国へ追いやられたのだ。
ウソンの母親が、ウソンを宿したとき、父親は彼女を秘密裏に逃した。
ウソンの父親は北の王朝では、暗殺されたルナの父親の次に有力な後継者候補で、現王朝にとっては目障りな人物だったのだ。一時、暗殺指令リストに名前が載っていたとも言われていた人物で、それゆえウソンのことを隠したのだった。
ウソンの父親は生きていたが、今は母国に招集され、実質的には自宅で軟禁されていた。だからウソンは、一度も実の父には会ったことがなかった。ウソンはずっと育ての親を自分の両親と信じて疑わなかった。それほど育ての親はウソンを愛し育てた。
ルナとウソンは共に北の王朝の血を引いていたのだが、猜疑心の強い北の皇帝の探索から身を護るためいに、身分を隠していた。
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