6. 電車のなか
電車の中は最も切ない場所だと思う。
イベントへ行く道はまだマシだがそれでもだいぶ切ない。忘れ物に気づいたり、もっとこう準備すれば良かった、と頭を抱えるのは決まって電車で座って一息ついた時だ。
もっと早く準備を済ませていれば徹夜せず済んだのに。せっかく頑張って用意したあれを忘れてしまうとは、等。しかし時すでに遅し。開始時刻は迫り、荷物は重い。
また、終了して帰る時の、夜の電車内。これが一番切ない。
高揚感と楽しさは時と共に消えていく一方、だんだんと戻ってくるのが、現実。
明日からまた仕事。土日で片づけられなかった家事の諸々。売れ残った本の重さ。言ってしまったおかしな言葉。疲労感。眠い。どうして重いキャリーバッグをひいて電車に乗っているのだろう? 一体私は何をしていたんだろう?
イベントが楽しければ楽しいほど、後の切なさは大きく重くなる。全部幻だったような気がして、何も成さないまま、ただ一日を無駄にした気持ちになる。
この生産性の無い、孤独で、終わりのないトンネルみたいな切なさが私はいやで、どうにかそう感じたくないけれど方法がわからない。誰かと一緒に帰っていても変わらないから救われない。
切なさを感じる間も無いほど乗車時間が短ければ良いのだが、イベント(特に文学フリマ大阪)に向かう時は大体、電車の神様からいじわるされているのかと思うくらい、長いこと電車に乗らないといけない。そんなに人間に切なさを感じさせて何が楽しいのか、神様。
ただ唯一、イベントで買った本を読んでいると、電車の恐るべき切なさから逃避できる。ページの奥に見える沢山の世界が、今の私を許してくれているようにさえ感じる。
何も有意義な事をしない休日でごめんなさい。明日からまた頑張るから。そうして他の世界に逃げ込みながら、全ての幻を振り切った電車が現実に降り立つのを待つ。
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