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謝らないで、と、彼女は繰り返した。目の中では、やはり炎が燃えていた。
「私が勝手に上原くんを好きになったの。こうなるの、分かってて、それでも好きになったの。二回目に告白した時にはもう、分かってたよ。……分かってて、それでも告白したの。だから、上原くんが謝る必要なんかない。」
謝る必要なんかない、と言われても、俺には謝る必要があった。それも、深く。
許されたかった。世界中のなにも許されないようなことをしている自覚はあったけれど、せめて鈴村さんには。こんな俺を好きだと言ってくれた、鈴村さんだから。
だから、ごめん、と、もう一度口に出した。許しの言葉が欲しいから謝るなんて、どこまでも俺は卑怯だな、と思った。
許されたかった。俺には俺を許すことができないから。
「これまでいっぱい傷付けて、ごめん。」
はじめて告白してきてくれた中三の夏から、俺の相談相手でいつづけてくれたひと。高校は別々になっても電話で話したり、時々会ったりして、いつだって俺を励ましてくれた。大学でまた一緒になってからは、いい友人でいてくれて、二度目の告白までしてくれた。俺は、このひとに、どれだけの優しさをもらったのだろう。それなのに、俺が返せるものは謝罪の言葉しかなくて、それが情けなくて仕方がなかった。
「傷ついてなんか、ない。」
両目から涙を流したまま、きっぱりと鈴村さんが言った。
「分かってたことだもん。傷ついたりしないよ。……私はずっと、上原くんの弱みに付け込んでた。謝るのは、私の方だね。」
そして彼女は、俺の濡れた髪をそっと撫でてくれた。指を伸ばして、静かに、撫で付けるみたいに。
「髪を乾かして、服も着替えて、中村くんに会いに行きなよ。……中村くんにも、上原くんは必要な存在だと思うよ。」
違う、と、俺は首を振った。
章吾から電話があったこと、今から部屋に行っていいか訊かれたこと、用件を聞くのが怖すぎて、逃げたこと。
全部鈴村さんに話した。すると彼女は微笑んで、分からないじゃん、と言った。
「本当にもう上原くんとはしないって言おうとしてたのかなんて、訊かないと分かんないじゃない。」
「……でも、俺は……分からないとしても、もしそう言われたとしたら……どうしたらいいのか、自分がどうなるのか、分からなくて怖いよ。」
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