なつめ
はじめて、章吾以外の男の人と寝た。
なんで自分がこんなことをしているのか、分からなかった。ただ、一人で部屋にいることに耐えられず、外へ飛び出し、ふらふらと繁華街に向かい、最初に声をかけてきた男の人と一緒に、ホテルに入った。
なぜ、と思う。
一人の部屋に耐えかねたなら、母親に救いを求めることだってできた。夜中に起こされたって、理由なんて言わなくても母さんは、俺の無駄話に付き合ってくれただろう。それか、父親の部屋に行ってもよかった。宵っ張りの父さんはまだ起きているはずだから、一緒に酒の一杯でも飲んで、落ち着くことだってできたはずだ。
それに……、それに、鈴村さんに電話したってよかったはずだ。俺を好きだと言ってくれたひと。やっぱり上原くんが好きです、とクラス会の帰り道、二人で歩いた夜の帰り道で言ってくれたひと。俺はその気持ちを受け入れて、彼女と付き合いだした。付き合い始めてまだ一月と経ってはいないけれど、夜中の電話くらい許される仲のはずだ。
それでも、俺はその中のどの選択肢も選ばず、見知らぬ男と寝た。シャワーも浴びずにベッドに転がり込んで、男に抱かれた。
章吾とは違うのだな、と、何度も思った。
声が違う。癖が違う。指も舌もなにもかもが違う。
それでも俺は、そのひとと最後までしたし、そのひとが眠るまでじっと抱き枕になってもいた。
それからシャワーを浴び、ホテルを出た。急いで。男のひとに気が付かれないように。
外に出ると、もうすっかり朝だった。俺はどうしていいのか分からないまま、しばらくホテルの前に突っ立っていた。
章吾からの電話を思い出す。
今からそっち行っていい?
俺の部屋に自分の部屋みたいに勝手に出入りしている章吾からのその台詞は、重いと分かっていた。章吾はただ俺の部屋に来たいわけじゃない。なにか話したいことがあるのだ。
決別だろう、と、思った。もうお前は抱かないと、我に返った章吾にそう言われるのだと。
そうしたらもう、怖くて怖くて。俺は咄嗟に章吾を撥ね付けていた。
彼女ができた。
嘘は言っていない。ひとつも。ただ、俺は章吾と向き合おうとはしなかった。章吾の言葉は聞き漏らすまいと、常にそう思って耳を澄ませてきた。章吾がそれに飢えていることを知っていたから。それなのに、俺は。
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