「……俺は、章吾の弱みに付け込んでるんだって気がするんだ。」

 多分それが、今一口にしたかった言葉で、口にして楽になりたかった言葉で、その言葉を鈴村さんは静かに受け止めてくれた。

 数秒間の沈黙。

 その後鈴原さんは、それってそんなに悪いこと? と言った。

 『私だって、付け込んでるよ。上原くんの弱みに。』

 「俺の、弱み?」

 『そう。私以外に相談できる人がいないの知ってて、上原くんが私に電話してくれるの嬉しいって思ってる。』

 鈴村さんの声は、涼やかできっぱりしていた。俺が、思わず泣き出したくなるくらいに。

 「……優しいね、鈴村さんは。」

 『今更気づいたの?』

 「……ううん。知ってた。前から。」

 知っていた。中三の夏、俺に好きだと言ってくれたときから。あのとき鈴村さんは、俺に肩を抱かせてくれた。そのことに、俺がどれだけ救われたか知れない。俺が章吾を好きだと、それが分かるくらい見ていたと、言ってくれた直後だったのに。

 「章吾は、寂しいんだ。寂しくて、それを埋められるのが俺しかいないって思いこんでる。そういう弱みに、俺はずっと付け込んでるんだ。」

 本当は、章吾の寂しさを埋められるのは別に俺だけじゃない。ただ、幼馴染で唯一の友人だった俺を抱いてしまったから、性欲まで満足させられる都合のいい相手を見つけてしまったから、そう思い込んでいるだけだ。本当だったら、今章吾が抱いているのであろう女の子が、章吾の寂しさを埋められるってことだって十分ありる。

 そう思うと、ぎゅっと心臓を握りつぶされるような心地がした。不安で不安で、居ても立っても居られないほど。

 章吾の目が覚めてしまう。

 俺だけではないと、知ってしまう。

 それが、怖かった。章吾には、いつまでも騙されていてほしかった。その間だけは、俺は確かに章吾の隣にいられるから。

 「……やっぱり俺は、汚いよ。」

 心からの言葉だった。

 電話の向こうの鈴村さんは、じっとなにかを考えているようだった。それは、随分長い沈黙。

 その間俺は、章吾のことを考えていた。

 いつから章吾は、俺の後に女の子を抱きに行くようになったんだろう。そして、それはなぜなんだろう。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、俺を抱き終わった後の章吾の横顔が浮かんだ、章吾はセックスの後、いつも水を飲む。ごくごくと、それは体育の授業終わりみたいに。

 俺とのセックスは、章吾にとっては体育のバスケットボールの試合と同じような、単純な運動なのかもしれない。身体を動かせて気持ちがいい、それだけの話なのかもしれない。




 

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