いつから縋るようになつめを抱くようになったのか、その理由はなにか。

 俺がその答えを出そうと頭を捻っていると、なつめが俺の頬を撫でた。それは、頬の一ミリ外側の空気を撫でるみたいな、慎重な動作で。

 俺はなつめの指を、冷たくて気持ちがいい、と思った。

 そして俺なんの答えも出せないうちに、なつめが薄い唇をはらりと開いた。

 「セックスだけしよう。」

 「え?」

 「セックスだけしよう。なんかお前、いろいろ考えてるだろ。そんなのいいから、セックスだけしよう。」

 はっきりとした物言いだった。動作の慎重さとは裏腹に、いっそ投げ捨てるみたいに。

 そんな物言いはなつめらしくなくて、俺は戸惑った。なつめは、いつでもそんな突き放した物言いをしなかったから。いくら喧嘩をしたとしても、それでもなつめはいつも、俺を決定的には突き放さなかった。困ったように眉を寄せながらも、俺を本気で遠ざけるようなことはしなかったのだ。

 けれど今のなつめの台詞には、その色があった。なつめは、本気で俺を突き放し、遠ざけようとしている。

 黙ったまま、ただなつめの髪に顔をうずめているしかない俺の頭を、ぽんぽん、となつめが軽く叩いた。

 「それ以上、なにが必要なんだよ?」

 なにがって……、

 俺は言葉に詰まり、顔を上げてなつめを見た。すると、なつめは両手で自分の顔を覆い隠した。

 その姿を見て、俺はようやく自分の中から言葉を引っ張り出すことができた。だって、なつめは俺を本気で突き放したわけじゃない、俺に顔を見せられないくらいには、なつめも迷っている。

 「なんでも必要だよ。俺には、お前しかいないんだよ。」

 俺がはじめてしまった関係だから、そのことでなつめを迷わせてしまっていることへの罪の意識は確かにあった。だから、言葉は正直に出た。どこにも引っかからずに。

 「一緒にいてくれ。ゲームしたり漫画読んだり、これまで通りいてくれ。」

 「これまで通り?」

 なつめの声は、いったん喉に引っかかるような、妙なひずみがあった。

 俺は、なにか言ってはいけないことを言ってしまったのではないかと思い、言葉を失いかけた。それでも、今ここで黙ってしまえば、それでなつめとの関係も終わってしまうような気がして、そうしたら俺は本当の一人になってしまうような気がして、必死で言葉をつないだ。

 「ずっと、二人で楽しかっただろ? そのままでいたい。それは、駄目なことか?」

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